水曜日である。百年前のこの日、宮本武蔵がラッコに襲われて死んだという。おそろしいことじゃ。さて、子どもの風邪がなかなか治らない。鼻水が出て、咳がよく出る。といってもいかにも子どもがよくなる風邪の感じで、熱も大して出ていないので、シン・コロナではないと思われる(一応、病院にも連れていったが、風邪でしょうとの見立て)。
とはいえ食欲などないので、本調子ではないのだろう。今日も学校を休ませる。奥さまが午前から午後にかけて外出。私は原稿仕事があるので、子どもの相手もそうそうできない。というわけで映画を見せておく。ちょうど昨日、KADOKAWA映画のチャンネルに加入したのでガメラでも松田優作でも金田一でも見放題だ。以前から子どもが見たがっていた『戦国自衛隊』流しておく。戦車と侍、子どもの好きなものが激突するので面白かったようだ。私もちょいちょい覗きに行ったが、絵の贅沢さが尋常ではない。しっとりしたバラードが流れるのはいかにも当時の角川映画で「是が非でも感動させてやる!」というハルキの圧を感じるが、そこがまたいい。
昼ご飯食べて仕事していたが、どうにも調子出ず。子どもの風邪がうつった模様。コロナ禍以降、ほとんど風邪を引くことがなかったので、この微妙にぼんやりする感じはすごく久しぶり。しかし急ぎの原稿山積であり、気合いを入れねばならない。Spotifyで小倉優子を聴きながらやる。曲も演奏も歌ももうすべてが投げやりで、ファンの私も「OH!NO!」と叫びたくなる代物。そこがまたいい。偶然にも遠方の友人からは「おれは笠木忍の曲を聴いてたぜ」との連絡が入り、日本の音楽ファンはどうなってしまったのかと不安になる。
さて国書刊行会より届いた荷物の件(11月26日の項を参照のこと)、無事解決したのであらためて中を確認。『定本夢野久作全集』第8巻。決定版全集これにて堂々の完結である。西原和海さんをはじめとする編者の皆さまには、心からお疲れ様でしたと申し上げたい。それにしてもこの本、重い。分厚い。ビルから落としたら車が壊れる。
この第8巻の月報に「彼方からの呼び声」というエッセイを寄稿した。心霊学と数学を絡めた久作らしい怪談「木魂」などについて書いている。高価な本なので軽々に「読んでちょ」とは言いにくいものがあるが、図書館などで見かけたらご一読いただきたい。
夢野久作は大学の学部時代と修士課程、合わせて数年学問の対象としたし、それ以降も折に触れて読み返してきた自分にとってとても大きな存在なので、決定版全集という二度とない場に携わることができて、光栄に思っている。
私は大学院にいて「このままじゃ飢え死にするぜ、この世界……」と思って博士課程に上がることなく、追われるように修論を書いてそそくさ足を洗ったのだが、しかしそれはやっぱりどこか言い訳で、文学研究に人生を賭けられない、学問に不向きな人間だったのであろう(ろくろく学会にも行かずゾンビ映画を作っていた)。それだけに真面目に文学研究をしている人たちに対するまぶしさみたいなものは常に感じるし、そうなれなかった自分への忸怩たる思いみたいなものも時に覚えることもある。「研究者になれなかった自分」というのは、いつまでも取れない魚の小骨のようなものだった。しかしだね、もしあのまま研究者志望として芽の出ない人生を歩んでいて、今回の機会を得ることができたかどうか。おそらく、というか百パーセント無理だったろう。
なので結果的に、大学院を出てフリーターなのだか素浪人なのだかよくわからないぐじゃぐじゃな悪路を歩んできたことは、夢野久作好きとして実は正解だったのではないか、結果オーライ生頼範義だったのではないか、と思っている次第なのだ。
それにしてもねえ、月報に文章を書くなんていよいよもって文化人枠の仲間入りじゃないですか。この勢いでクイズ番組にでも出られないかな。どんな問題にも「越後製菓!」と答えますけども。
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