2022年7月20日水曜日

怪老人日乗:7月20日(水)

キューバのカストロが言ったとおり、人生は学びの連続である。私は最近こんな学びを得た。つまりですね、本気で忙しいと日記は書けないね。これまで結構いいペースで日記を付け続けていたんですけど、7月に入ったあたりから忙しさが本格化して、いや、忙しいという言葉はあまり好きではなく、そもそも会社勤めをしたことがない私はどのくらい働くのが忙しいのかもよく分かっていない節があるのだが、とにかく朝から深夜までずっと原稿書きオア取材オア資料読みという日が続いていまして、怪老人登場ができなかったのですね。むーん。

じゃあ今は落ち着いているのかといえば全然そんなことはなく、やること山積でヤバイ中のヤバイなのですが、あまりにも仕事が複数同時並行過ぎて、もう何から手を付けていいのか分からず、公案の答えをひらめいた禅僧のように「そうじゃ、日記を付けよう」と思ったわけなのです。逃避ともいう。

でこの半月どんな具合に生きていたかといいますと、幻想文学史にかかる非常に重要なインタビューをした気もするし、その打ち上げで銀座に出かけたような気もするし、しかし自分みたいな路傍のロボが銀座で飲食するのもおかしい気がするので、そのあたりは夢想のような気もするが、あるいは国際政治学的な話題についての取材もした気もするし、某ミステリー文学新人賞を受賞された気鋭にZoomでお話をうかがった気もし、その合間に半日だけ休みをとってお芝居を見に行った気もする。アングラで素敵な演劇を。しかしすべては帝都が見せた白昼の夢かもしんない。ただ確実にいえるのは、このところ日課のヨーガをさぼっているために、みるみる体の線が崩れ、タールマンのようになってきている、ということである。

まあ7月後半になっても忙しさが去らないのは、来た順にばかばか仕事を受けてしまうからで、しかし自由業者というのは大抵意地汚いもので、意地汚いという言葉が悪ければ臆病なもので、「この仕事を断っちゃうとなー、次がないかもしれないしなー、来月暇で家賃払えなくなるかもしれないよなー」などと守っているんだか攻めているんだか分からない心理状態に陥り、つい引き受けてしまうのである。よく「おれは誰にも使われたくないぜ、自由に生きるのさ」的ロック発言をする人がいるけれども、自営業というのは実はそういうスタンスとは対局にあるような気がする。宵越しの金をもたねえ、的なことを言える人はよっぽど潔いのでなければ、毎月の収入が安定しているか、実家が裕福なのであろう。

なんか話がどんどんずれている気がするな。そろそろ今日の日記を書こうぜ。ええとですね、昨晩は夜中の2時まで原稿書き。急ぎ仕上げねばならないインタビュー記事があり、昨晩せっせと進めたのがあらかた完成したので、今朝一番にリードなど書き添えてK社の担当さんにメール送信。ふう。そのまま1時間のみ仮眠。怪談を聞きながら。オリビアを聴きながら眠っているのは杏里だが、怪奇幻想ライターはYouTubeで怪談を聞きながら眠るのである。

で、午前中ちょっとだけ用足しで所沢へ。奥さまと出かける。小腹が減ったので団子を買って食べ、なんとかいうあんこで有名な店だったが、基本あんこの付いているものは何だって美味しいので、「美味しいなあ」と思って食べた。私の前世はあんこかもしれない。

そのまま電車に乗って飯田橋。K社にて某月刊誌の出稼ぎ作業。やること自体は単純作業に近いのだが、気を抜けるわけでもなく、手間もそれなりにかかる。いや、昔はこの作業で一月使っていたのだから、大変っちゃ大変だ。それを夕方4時までやって、飯田橋でジュンク堂書店。時間も資金もなく半月以上来ていなかった。怪談、ホラーの新刊をざらざらとまとめて買う。藤津亮太氏の『増補改訂版「アニメ批評家」宣言』(ちくま文庫)も買う。これは来年出るはずの、つまりは今年後半書くはずのホラーガイドブックの資料。

そのまま大慌てて帰宅し、一学期終えた子どもと奥さまと外食。ふたりは日中、上野の博物館で恐竜化石の展示を見てきたという。子どもはティラノザウルスのぬいぐるみを買ってもらってゴキゲンだった。家の近所の店なので、自転車漕いで帰宅し、そのままパソコンに向かう。

さてやるべきこと多いし内蔵助。まずあちこちから送られてきたゲラのチェック、大小合わせて4ツ、うちひとつはかなりの大物(ムック)。それを終わらせた後、これまた急ぎのゲラ読みと、取材用本読みと、『怪と幽』の特集原稿をやらねばならぬ。ぼんやりしているとあちこちからメール。私は忙しないのが苦手で、ぼんやりと地面のアリを眺めているような暮らしが好きなのだが、どうにも望むように生きるのは難しい。まあ、仕事をいただけるのはありがたい話であるから、やれるだけやるのだけれども。

というわけで、せっかく出てきた割に笑いを誘うような話はないのである。あえていうなら、「同窓会には行けません、今シンガポールにいるので」みたいな建設会社のコマーシャルがあるじゃないですか。アニメのやつ。あれについて考えていて、ふと気づいたことがある。外国にいて、ヘルメットをかぶってて、同窓会に出られません。つまり彼女、革命家なのじゃないだろうか――。



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