2022年4月16日土曜日

怪老人日乗:4月15日(金)

台風が太平洋を北上中。朝から雨。一昨日の無理がたたり、まだ眠い。この年になると徹夜した翌日より2、3日後の方が眠いのだった。

さて午前にすこし時間が取れたので外出。竹橋の近代美術館にて鏑木清方展を見る。近代美術館に来るのは結構久しぶり。大手町で乗り換えた時点で、「都会だなあ」と思ったが、竹橋駅の地上に出たら皇居のお堀が目の前にひらけて、「東京だなあ」と思った。私が住んでいるのは東京といっても田舎なので、朱引きの中に来ると緊張するのであった。

鏑木清方展、すばらしかった。日本画はほとんど知識がなく(洋画だってないけど)鏑木清方は「なんか鏡花っぽい美人画を描いた人」くらいの感じで出かけたんですが、いやあ、恐ろしいほど絵がうまい。植物も人間も。そして美人画といっても浮世離れしたものではなく、市井の人の暮らしに根ざしたものであって、作品には四季折々の風俗が織り込まれている。そこがしんみりくる。




私は北国の野人のように育ったので、江戸の粋とか情緒とか、日本橋あたりで醸成されるあの感じというのが分からない人間なのである(鏡花より久作、というタイプ)。それもあって鏑木清方的な世界にはやや距離を感じていたのだけど、年齢のせいでしょうかねえ、季節の移ろいとともに生きる日本人の生活に胸を衝かれるところがあって、いいなあ、こういう絵が見られてよかったなあ、という気分になった。同行した奥さまと、いいねえ、いいよねえ、と言い合いながらじっくり見て歩く。

しかし清方は歌舞伎のスケッチも残しているし、近松作品を大量に作品化している。鏡花との親交は有名だが、樋口一葉も愛読して「たけくらべ」も絵にしている。というわけで、この時代の東京では芝居も落語も小説も、すべてがシームレスに繋がっていて、そこから鏡花や清方や谷崎や芥川や平井呈一の仕事が生まれているので、この辺を分かろうと思ったらもっと日本文化を勉強しないとダメだなと思いました。

美術館出てもまだ雨やまず。神保町まで歩いて「はちまき」で天丼。いいところ見せようとご飯を大盛りにしたら、米が多くて目の奥がチカチカしてきた。胃袋に血がまわりすぎて貧血を起こしたのであろう。われながら間抜けなことである。奥さまと神保町にくるのは相当久しぶり。子どもが生まれてからはほとんど一緒に来ていないのではないか。短い時間だけど楽しうございました。移転前の三省堂もぎりぎり覗けてよかった。

御茶ノ水駅まで歩き、そこから飯田橋に移動して仕事。好書好日インタビューのプレビューチェックを済ませ、諸方面とメールのやりとり。K社に立ち寄って某誌編集作業を19時まで。終日雨が降っていて、冬に逆戻りしたかのよう。

風呂では田中文雄『死霊警察』読む。顔がドロドロに溶けたゾンビ警官が白バイにまたがり、日本刀を掲げて暴走族グループを襲いまくる。この白バイ、エンジン音がまったくしないという設定がいい。死霊警官はゾンビと幽霊のハイブリッドのような感じで、カーペンターの『ザ・フォッグ』に出てきた水死人お化けに似ている。対立する暴走族グループふたつ(斬婆路とボノボノ)が共闘し、この死霊警官を追うという展開が熱い。




毎月楽しみにしている斎藤潤一郎氏の漫画『武蔵野』(webトーチ連載)の最新エピソードを読んでいたら、私のアンソロジー『宿で死ぬ』が登場していて、大いに驚いた。斎藤さんが『宿で死ぬ』を読んでくださっていることは知っていたけれども、まさか主人公の持ち物として登場するとは。嬉しいっぴゃ。私は斎藤さんの漫画が好きで、スマホのケースにも『死都調布』のステッカーを入れているのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿