某直木賞作家氏の自宅になぜか招かれている。
急な階段のある、妙に縦長の家だ。呼ばれて2階から降りると、1階のリビングに大きな作業台のようなテーブルがあり、そこに『GON!』のバックナンバーが積まれている。
「どれでも好きなのを読んでいいですよ」
直木賞作家氏(かっこいい男性)は爽やかにそう云うと、上に積んである号に手を伸ばした。ああ、この人も『GON!』を読んでいたのか、そう思ったら嬉しくなった。
……というところで目が覚めた。
実話である。
扠。
90年代に思春期を過ごしたサブカル者にとって『GON!』は忘れがたい雑誌であろう。
当時、サブカル雑誌といえば太田出版の『クイック・ジャパン』とミリオン出版の『GON!』が双璧だったけれど、わたしは断然『GON!』派であった。
今でこそアイドルとお笑いに特化したカルチャー誌である『クイック・ジャパン』。90年代にはどこか都会的で斜に構えた雰囲気が漂っており、地方の素朴な高校生にはなんだか恐ろしく感じられたのだ。
その点、『GON!』はひたすらに下らなくて安心だった。
手元に残ってる『GON!』vol.6(1995年4月20日)の目次から適当に抜き出してみる。
「未だに戦い続ける2人の兵士」
「オバサン解放同盟 OBA-KING」
「悪趣味図鑑 ザ・食人族 世界食人族MAP他」
「これが見世物小屋」
「史上最強のオカマ」
「究極のマリファナ品評会」
「誌上シミュレーション第2弾 大東京クーデターマニュアル」etc、etc……。
いくらかは誌面のカオスな雰囲気が伝わるだろうか。
他にもごく普通の素人さん(=U夫人)が「あたしのファンクラブ作ってください」といってヘン顔を載せていたりもする。一体誰なんだ、U夫人って(笑)。
すべての記事が悪趣味とバカとテキトーのオンパレードであり、それがこの雑誌特有のメチャクチャなレイアウトと相まって、読む者を現実の裏通りへと誘いこむ。
あの頃「クイック・ジャパン」を読んでいたなら、もうちょっとだけ売れ線のライターに、と夢想しないでもないが、こちらの方がしっくりきたんだからしょうがない。
で。
書棚から出てきた同号をぱらぱら懐かしくめくっていたら、こんな記事を見つけてしまった。
「人体実験シリーズ第2弾 百物語漂流記」である。
これは怖いもの知らずの同誌ライターらが百物語を敢行しようというもの。
基本、肝試しのノリだが、お寺の本堂でちゃんと蠟燭をともしてやっているのがエラい。
百物語怪談会を100話完全収録したものとしては、菊地秀行らによる『文藝百物語』(単行本はぶんか社)、『幽』ブックスの『女たちの怪談百物語』『男たちの怪談百物語』(単行本はメディアファクトリー)がよく知られていよう。
いずれも近年の怪談文芸の隆盛を語るうえで重要な試みだが、まさかこれらに先だって『GON!』誌上に百物語が採録されていたとは思わなんだ。
『GON!』らしいページレイアウトでみっちり、4ページに全百話の怪談を収めているので、字が小さすぎて読む気が起こらないのだが……。
とにかく。
百物語形式をあらためて世に知らしめた『新耳袋』新装版の刊行(1998年)に先立つこと約3年、90年代を代表するサブカル誌『GON!』でこのような試みがなされていたことは、本邦怪談史において記憶されてしかるべきではないだろうか。
違うだろうか。違う気がしてきた。
(なんてったって字が小さい!)
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