2017年8月4日金曜日

この夏の課題図書、『21世紀ホラームービー年代記』


これは便利だ!


何がって『21世紀ホラームービー年代記』(山崎圭司、岡本敦史、別冊映画秘宝編集部編/洋泉社)ですよ。
これはタイトルのとおり、21世紀に入って造られたホラー映画のガイドブックなのだけど、いやあ、拝みたくなるくらい便利ですね。こういう本を待っていた人、多いんじゃないかな。


(表紙でほほえむアナベルちゃん)


ひとくちに「21世紀ホラームービー」といってもその作風は多彩、しかもどことなく散漫漠然としており、一介の映画ファンにはこれまでどうにも全貌を把握することが難しかったのですよ。


ゾンビが全速力で走る一方、拷問やデスゲームが暗い部屋で繰りひろげられ、POVの手ぶれ映像をやたらに見せられたかと思うと、古典作品のリメイクが次から次と現れる。とりあえずそんな印象はあるのだけど、じゃあ、21世紀ホラーとは何だったのか、この20年弱の間にホラーに何が起こったのか。そう正面切って問われると、答えるのはなかなかに容易ではない。
同じように感じているホラー映画ファンは、きっとわたしだけではないと思う。


で。
本書はそうした疑問に、圧倒的な情報量をもって答えてくれる良書だ。


なんといっても特筆すべきはその情報の濃さ、深さである。
人気タイトル、有名シリーズの紹介はもちろんのこと、ジェイソン・ブラム、ジェイムズ・ワンら21世紀ホラーを語るうえでは欠かせないキーパーソンの経歴(有益!)、21世紀のアメリカン・ホラー十傑と裏十傑(わが偏愛の『ファイナル・ガールズ』が選ばれていて嬉しい)、2000年代に狂い咲いた〝拷問ポルノ〟系作品や古典リメイクの総括、さらには誰が見るんだよという動物パニックホラーまでを網羅(ここも無駄に情報量がすごい)。


ホラー映画といってもハリウッドに偏らず、フランスやスペインなどのヨーロッパ各国、韓国や香港に東南アジア諸国、日本国内の動向までをきちんとフォローする視野の広さ。それを支えているのは、一騎当千のライター陣の活躍である。インドネシアやベトナム、トルコのホラー映画事情まで分かってしまうんだから、これで定価1500円はお安いといえる。


本書を手にいれて約10日間、舐めるようにページを繰った結果、これまでとっちらかっていたレンタル屋のホラー棚が、ギューッと整理されて頭に収まった。作品やキャストの情報はもちろんウェブでも得ることができるけれど、こういう凝縮効果を得られるのは紙の書籍ならでは、という気もする。


本書を読んでいるととにかくホラー映画が観たくなり、途中で観るのをやめた『ファイナル・デスティネーション』も最後まで付き合ってみようかしら……という気にさえさせられた。
で。
とりいそいぎ本書の記事に惹かれ、現在公開中の『ウィッチ』を鑑賞してきた。
うむう。塩加減が絶妙な、ハードかつリアルな魔女ものホラーでした。
森の奥から不穏な気配がじわじわ漂ってくる映画なので、アーサー・マッケンあたりが好きな人は是非。
 



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