2016年9月19日月曜日

とんでもなく面白い『〆切本』



仕事につまるとつい、藤子不二雄Aの『まんが道』を手に取ってしまう。


「あー、あの〆切全部落っことすところが読みてえなあ」という気持ちに駆られるのである。
ご存じの方も多かろうが、それはもう、怖ろしい場面なのだよ。




『まんが道』の「青雲編」。中公文庫版でいうと第12巻に収録されているエピソードなのだが、上京し、プロの漫画家として順調なスタートを切った主人公の2人が、こなしきれないほど多量の仕事を受けてしまい、しかも久々の帰省で気がゆるんだこともあって、次々と〆切を落としてしまうのだ。


じゃんじゃん東京から届く催促の電報。描いても描いても終わらない原稿。じりじり遅れていくスケジュール。「そのあとの10日間は地獄だった!」という文章が、ズッシリと胸に突き刺さる。〆切のある仕事をしている人間には、いやな汗がじんわりと滲む、絶対現実になってほしくない悪い夢なのだ。


それなのにどうして読んでしまうのか、といえば。
まあ、苦しんでるのは自分だけじゃない、いや、この2人に比べればだいぶマシ、と安心したいのでしょうな。
精神的同種療法というか、「ひい、明日の朝までにこれ全部書くのはムリだよ」という、断崖絶壁を歩かされているような気持ちを、同じように苦しんでいる満賀道雄と才野茂の姿を横目で眺めて、すこしでも軽くしたいのであろう。


そんなわたしであるからして、新聞の書評欄で『〆切本』(左右社)なる本が紹介されているのを見て、すぐに買いに走ったのであった。




古今の文人90名が〆切についてそれぞれ思うところを綴った文章を集成した、前代未聞のアンソロジーである。 これがたいへんに面白い。よくもまあ、こんなにも〆切にまつわる文章ばかり集めたもので、編纂者の労力には頭がさがる。


多くは、つらい、書けない、〆切が怖いといった内容だが、なかには「〆切りを守るということに関しては、日本作家のなかでも最優等生の部類に属するのではないか」(北杜夫)とか、「僕自身は、一度も締切に遅れたことはない」(森博嗣)といったものもある。どちらにしても、〆切にまつわる文章というだけで、どの作家のものもなぜかむやみに面白い。この面白さは、病院の待合室で持病の話をするのとちょった似た類の面白さかもしれない。


これまでは〆切前ギリギリになると『まんが道』12巻に手を伸ばしていたが、これからは『〆切本』も愛用することになりそうだ。


そもそも。
滅多にブログを更新しないわたしがなぜ日に5回も、まるでしょこたんのような高頻度で投稿をくり返しているかといえば、明日の朝までに〆切があるからなんだよッ!




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