2016年9月19日月曜日
『人喰いの時代』再び
いや、驚いた。
山田正紀の『人喰いの時代』の続編が刊行されたのである。
ここ1、2年。『人喰いの時代』が手書き風のポップつきで大手チェーン書店の目立つところに並べられていて、売れているんだろうなとは思っていたが、まさかまさか、続編が刊行されることになろうとは!
知らない人のために説明しておくと、『人喰いの時代』は天才・山田正紀が1988年に刊行した本格ミステリー作品である。
軍靴の響き高まりつつある昭和初期を舞台に、放浪の名探偵・呪師霊太郎が不可能犯罪の謎に挑んでゆくさまを連作形式で描いている。
まあ、これが面白いのだわ。
山田正紀の戦前もの(『機神兵団』『崑崙遊撃隊』『ミステリ・オペラ』などなど)はどれもヒリヒリする感覚があってたまらないのだが、『人喰いの時代』は幕切れの鮮やかさにおいて、ひときわ印象に残る作品になっている。
一話完結形式で進んできた物語は、最終話「人喰い博覧会」においてひとつにつながり、それまで築きあげてきた風景をガラリと崩壊させるのだ。その先に現れる、あまりにも哀切で意外な真相。
人が人でなくなる時代、いわゆる「人喰いの時代」において名探偵とは、探偵小説とは何だったのか。それを他ならぬ探偵小説の形式で問いかけた、ほろ苦い青春ミステリーである。むうん。読み返したい。
で、今回の『屍人の時代』(ハルキ文庫)。
前作のラストからして、呪師霊太郎の復活はありえないだろうと思っていたのだが、あったんですねえ。ネット書店の紹介文を引いておく。
零戦を巡る映画の主演に選ばれた結衣子。だが映画の企画が無かったことにされてしまう。そんな時、彼女の前に呪師霊太郎と名乗る貧相な若者が現れ…。時を経て姿を現す不思議な探偵が遭遇した4つの事件とその解決を描く。
「本来書かれるはずのなかった幻の小説、奇跡の刊行!!」という帯文から推察するに、『人喰いの時代』のヒットによって書かれた続編、ということなのかな。
そのあたり、著者の十八番ともいえる「読んだらやるせない気持ちになる後書き」がついていないので、事情が分からない。教えてくださいハルキ文庫編集部。
ともあれ。
呪師霊太郎ファンクラブの一員(にして黙忌一郎愛好家にしてW・B親衛隊)としては、『屍人の時代』の刊行は嬉しいニュースなのであった。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿