すっかりご無沙汰してしまったが、特に不祥事など起こしたわけではなく、税金の計算、不動産屋での新居探し、ウーパー・ルーパーの密輸、ウーパー・ルーパーの飼育、エトセトラ、エトセトラ……といった非文学的な理由によるところが大であった。
4月はせめて宗教家らしく、邪悪に日々を送りたいと思っている。
さて。
いろいろ書くべきネタはたまっているのだが、まずは2014年3月に出た怪奇幻想文学をざっとおさらい。例によってわが近視眼に飛びこんできた範囲内だが、書店めぐりの参考にしていただけると幸い。それではいきましょう。喝。
【国内小説編】
まずは黒史郎『失物屋マヨヒガ』(KADOKAWA メディアファクトリー)と椰月美智子『消えてなくなっても』(KADOKAWA メディアファクトリー)が怪談ファンには要チェック本。
失ったものが手に入る異次元の駄菓子屋を舞台にした『失物屋マヨヒガ』は、黒史郎の〝悦ばしき知恵〟が詰まった作品で、駄菓子やレトロ玩具が過去への扉を開く、といった物語。昭和特撮テイストあふれる異次元描写も出色だ。
『消えてなくなっても』は、高千穂地方をモデルにした山村の治療院に流れるおだやかな時間を描きつつ、生死や運命などをテーマとした静かなる長編。霊能力がある女性が営む治療院の日々は、ミスティックなムードが満載である。
黒氏には『ダ・ヴィンチ』4月号、椰月氏には3月号でそれぞれインタビューさせていただいたので、あわせてご覧いただきたい。
怪談雑誌『幽』関係では、デビュー作『おじゃみ』が好評だった神狛しず『京は成仏びより』(MF文庫ダ・ヴィンチ)も刊行されている。京都が舞台のコメディ系怪談だ。
東雅夫監修『ずっと、そばにいる 怪談実話系』(角川文庫)は以前、MF文庫ダ・ヴィンチより刊行されていた『怪談実話系』シリーズ第1巻の角川文庫化。こちらでは黒木あるじが「怪談実話系」に挑んだ書き下ろしが読める。旧版をお持ちの方もご一読を。
その他に、めぼしいホラー&怪奇幻想関係をあげておくと、柳原慧『腐海の花』(廣済堂出版)、滝沢秀一『かごめかごめ』(双葉社)、松久淳&田中渉『かみつき』(扶桑社)、輪渡颯介『迎え猫 古道具屋皆塵堂』(講談社)、狂気太郎『デビルボード』(彩図社)、田丸雅智『夢巻』(出版芸術社)あたりか。
『デビルボード』の狂気太郎は、『想師』で第1回ムー伝奇ノベル大賞・優秀賞を受賞した灰崎坑の変名。ネット上でしっかり執筆を続行していたようで、嬉しいかぎりだ。田丸雅智『夢巻』は星新一の流れをくむショート・ショート作家のデビュー作品集。
角川ホラー文庫はいつもどおり3冊の刊行。
三津田信三『五骨の刃 死相学探偵4』、大石圭『甘い監獄』、新津きよみ『最後の晩餐』である。『五骨の刃』はしばらく中断していた「死相学探偵」シリーズの新刊。
竹書房文庫からは麻日珱『萬屋探偵・鬼薙 道楽お嬢と貧乏学者の怪奇事件簿』、紙吹みつ葉『占い師・お蓮の館 幽霊でも占います』の2冊がリリース。キャラクターノベル寄りのホラーというのは、売れるのだろうかね。
時代小説文庫では、朝松健『ひゅうどろ 大江戸妖怪事典』(PHP文芸文庫)が出ている。
また新刊ではないが、綾辻行人の代表作『霧越邸殺人事件 完全改訂版』が角川文庫より刊行された。本格ミステリと幻想文学の境界線上にある傑作なので、未読の方はこの機会にどうぞ。津原泰水の短編集『11 eleven』(河出文庫)も、これから読める人がうらやましいほどの豊饒な幻想世界。
ホラー大賞作家・あせごのまんが『蒲団における針的人生の行方』など、短編をいくつかKindle上で販売しはじめた。作家が直接にkindleで作品を販売する、こんな時代が来たのだなあ。今後のひとつのモデルになるかもしれない。
【海外小説】
グスタフ・マイリンク『ゴーレム』(白水Uブックス)が、地面を突き破るようにして唐突に復刊されたのが嬉しいニュースだった。ドイツ幻想文学の古典として知られるが、長らく古書でしか入手できなかった作品だ。定番ものはいつでも新刊で手に入る状態であってほしいよね。
同じくドイツ語圏の幻想文学として、『グラディーヴァ/妄想と夢』(平凡社ライブラリー)も出た。ポンペイを舞台としたヴィルヘルム・イェンゼンの幻想小説に、フロイトの論考を付す。海外幻想文学&シュルレアリスム系がお好きな方はどうぞ。翻訳は種村季弘だっ!
超大作『2666』で知られる(読んでませんが)チリ人作家ロベルト・ボラーニョの遺作として刊行されたのが『鼻持ちならないガウチョ』(白水社)。カフカやボルヘスへのオマージュ、さらにはなんと「クトゥルフ神話」という作品まで収められている!
『時が新しかったころ』(創元SF文庫)は最近またじわじわと人気が出ているロバート・F・ヤングのロマンティック時間SF長編。『変種第二号』(早川文庫SF)はP・K・ディックの短編傑作選集。ディックはチョコレートのようなもので、精神的に疲れていると無性に読みたくなる。これまでの短編集と重複もあるけど、また買ってしまいそうだな。
【怪談実話】
怪談実話は竹書房文庫の3冊のみだと思う。
雨宮淳司『恐怖箱 魔炎』、宇津呂鹿太郎ほか『怪 異形夜話』、平山夢明ほか『FKB饗宴6』。
『怪 異形夜話』は期待の次世代作家8名が参集した競作集でございます。表紙がkowaiですね。
【評論その他】
3月は評論・研究書が豊作だった印象。
まず目玉としては、 ミシェル・カルージュ『独身者機械』(東洋書林)の新訳があげられよう。
澁澤龍彦や種村季弘がたびたび参照したことで知られるエロティシズム論集である。以前出た邦訳版はながらく入手困難で、たまに古書店で見かけても、卒倒するほどの値段がつけられていた。税込3888円には一瞬ひるむが、古書価にくらべればずいぶんと安いのである。
いけない匂いがする映画論集『映画の生体解剖 恐怖と恍惚のシネマガイド』(洋泉社)も必読本。著者は『何かが空を飛んでいる』の稲生平太郎と『映画の魔』の高橋洋。どろっとした黒い溶岩めいたものが、両脇から押し寄せてきそうではないか。
『独身者機械』と『映画の生体解剖』を買ってしまって、今月はお小遣いがのこらない……というのが怪奇幻想ファンの正しいありかただと私は思う。
映画といえば、高槻真樹『戦前日本SF映画創世記 ゴジラは何でできているか』(河出書房新社)、『Jホラー、怖さの秘密』(メディアックスMOOK)も出ている。後者は本格的なJホラー回顧本。近く刊行されるらしい小中千昭のホラー論集とあわせて読みたい。
小南一郎『唐代伝奇小説論 悲しみと憧れと』(岩波書店)、平林美都子『「語り」は騙る 現代英語圏小説のフィクション』(彩流社)、鈴木暁世『越境する想像力 日本近代文学とアイルランド』(大阪大学出版会)などだ。『越境する想像力』は大正文壇に対するアイルランド文学・戯曲の影響関係を探ったもの。
坂本貴志『秘教的伝統とドイツ近代 ヘルメス、オルフェウス、ピュタゴラスの文化史的変奏』(ぷねうま舎)、コレット・ボーヌ『幻想のジャンヌ・ダルク 中世の想像力と社会』(昭和堂)なんてものも出ている。前者はシラーの怪奇長編『見霊者』への言及もあるらしいので、ちょっと気になるところ。
千街晶之『読み出したら止まらない!国内ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)は国産ミステリーのブックガイド。小栗虫太郎、中井英夫、竹本健治などへの言及も含む。著者独自の鑑識眼で、各作家の必読作をセレクトした労作。
倉阪鬼一郎『元気が出る俳句』(幻冬舎新書)は、話題を呼んだ『怖い俳句』の続編。著者のことだからきっと明るい俳句に混じって、怪作・病気作が潜んでいるはず。
【漫画・アート】
近藤ようこの新刊が2冊出ている。
『五色の舟』『宝の嫁』(KADOKAWA エンターブレイン)。前者は津原泰水が原作、後者は中世ものの新装版。『五色の舟』のあの一家は、なるほど近藤ようこの絵柄とよく合いそうだ。読むのが愉しみ。
「水木しげる漫画大全集」は3月も順調に出て、『貸本漫画集 6 地底の足音他』『「ぼくら」版カッパの三平他』 (講談社)の2冊。「地底の足音」はラヴクラフト「ダンウィッチの怪」を水木しげるが翻案したものだ。
高橋葉介の新刊『怪談少年』(ぶんか社)は、その名も「怪談」を冠した幻想漫画集。
ショーン・タン『見知らぬ国のスケッチ アライバルの世界』 (河出書房新社)は、グラフィックノベル『アライバル』制作の舞台裏を明かしたスケッチ集だ。
以上。
さきほど読んだ月刊『ムー』によれば、火星の表面で「前方後円墳」らしきものが発見されたという。
たいへんな発見ではないか。何があってもおかしくない世の中。まったくもってわけのわからない世の中。せめて華麗に生きたいものである。
アデュウ!
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