2014年3月11日火曜日

古本屋の神かくし



荻窪にある古書店「象のあし」が昨年末、閉店するというので全品半額セールをはじめた。
コミックや文庫、エッチな雑誌にまじって、幻想文学やオカルト、戦史本もたくさんあって、資料さがしに重宝していた店だったから、閉店の知らせはすくなからぬおどろきであった。


店員さんの話では、一月末ころまで営業する、という。
以来、荻窪方面に用のあるときにはかならず立ち寄って、1冊か2冊、幻想文学絡みのものを買うようにしていた。半額で買いやすいというのももちろんだが、これまで世話になったお店への、はなむけのような意味合いもあったのである。


さて。
一月がすぎ、二月になっても、まだ半額セールはつづいている。
おかしいな。品物がなくなるまでセールをつづけるのかな。そう思って見ていると、どうやらまだ買い取りもおこなっているらしい。紙袋をさげたおじさんが、大量の本を売りにきている。いったいどうなっているんだろう。謎は深まるばかりだ。


で。
昨日、荻窪のコーヒー屋で原稿を下書きした帰り道、前を通りかかったら、まだ店は開いていた。ギンギンに開いていた。
しかもである。閉店の告知はいつの間にか消えている。同時に「半額セール」の文字も見あたらなくなっていた。つまり。閉店するのをやめたんでしょうかね。どうもそういうことらしい。
半額で買おうと思っていたら、いつしか半額ではなくなっていたコリン・ウィルソン翁の『宇宙ヴァンパイアー』のけばけばしいカバーを眺めながら、嬉しいような、釈然としないような、複雑な気分におちいったのであった。


なお。
レジの横に大量にあった幻想文学書(雑誌『幻想文学』バックナンバー多数を含む)は、きれいさっぱりなくなっていた。まるで神かくしのように、レジ横の幻想文学がなくなって、かわりに最近のミステリー単行本が並べられている。吉屋信子もあったし、三島由紀夫もあったし、内田百閒もあったはずだが、あれらは皆どこへ行ってしまったのだろうか。
コーナーごと同系列の他店にまわされたと考えるのが自然だろうが、それよりも、青白き怪奇的美少年がパトロンのクレジットカードで颯爽と一括購入していった、とわたしは想像したい。そのほうが夢があって愉しいではないか。


いまだにクレジットカードすら持っていないわたしは、そのうち『宇宙ヴァンパイアー』をもとの値段で買ってしまうのだろうな、と思っている。




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【おまけコーナー 今日のあんこ】

筒状の羊羹を最初に開発したのは、いったいどこの菓子店なのか。
指でぐっと押し出し、好きなだけ糸で切って食べる、というこの筒状羊羹には、どこか子供の工作めいた楽しさがあって、開発した職人は表彰ものである。

五勝手屋羊羹、というのは北海道の人間にはたいそう身近なメーカーで、わたしの家では羊羹といえばもらうのも買うのも、もっぱらこの五勝手屋であった。それもこの筒状羊羹のイメージが強い。贈り物などで五勝手屋羊羹の詰め合わせをもらっても、筒状のほうから先になくなっていったような記憶がある。それは包丁がなくても食べられる、という利便性だけによるのではなく、やはりあの工作めいた手順が誰にとっても楽しかったからであろう。



とらやの羊羹に比べると、ずいぶん甘さが抑えてある。小豆ではなく金時豆、砂糖のほかに麦芽水飴がくわえてあるからだろう。

この麦芽水飴というのも北海道ではポピュラーな甘味で、南部煎餅に塗って食べるひとも多いようだ。

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