第二部の幕開けは、京極夏彦氏による朗読。
『耳嚢』巻の九より「赤坂與力の妻亡霊の事」と、それをリライトした『旧耳袋』の「やや薄い」をあわせて。なぜこの話かといえば、地元深川の霊厳寺にゆかりのある怪談だからなんですね。怪談イベントには、京極氏の朗読は欠かせません。
その後、司会進行役の東雅夫氏が登場。
つづいて東西の怪談作家、各5名ずつがステージに現れました。この日はセットがすごかった。ステージの上に墓石が4基、ドーン、ドーン、ドーン、ドーンと立っております。その屹立具合の恰好いいこと。お墓が好きな人間には、タマラナイ構図でありますな。向かって左手が西軍、右手が東軍です。
して、さっそく怪談バトルが始まりました。
通常、『幽』のイベント(怪談ノ宴)などですとフリートークがあって、合間に怪談があって、という流れなんですが、この日はもうストイックにひたすら怪談、怪談、また怪談。計10人の怪談作家&怪談師が、挙手をして、自慢のネタを披露してゆくという流れになっていました。
先攻は西軍。トップバッターは朱雀門出さん。
小学校時代に流行った「死刑」というボール遊びにまつわる話を披露してくれました。小学生たちの夢とも現実ともつかないものへの怯えが、ラストにおいて実体化してしまう……という非常に奇妙な話で、オーガスト・ダーレスの短篇「淋しい場所」をちょっと連想させます。かなり好み。
むかえ討つは東軍のトップバッター、黒史郎さん。
黒さんの実話はかなり奇妙なものが多いですが、今回も本領バリバリ全開。友人H君のアパートに遊びいった少年が、戸口の隙間からみたもの。それは果たして人間なのか死者なのか。そして息子を亡くしたH君のお母さんのとった、わけのわからない行動の理由は?「パウチッコ」という固有名詞の使い方が、黒さんらしい昭和テイストを醸し出していました。
西軍2番手は怪談社の紙舞さん。
京都のマンションに住む若夫婦。その子どもが真夜中になるとある一点を指さす。その先にあるものとは?二段オチを用意した凝った展開の話で、しかも二度目のオチに出てくるものがかなり異様。ニューッという動きが、なんともいえずウィアードな味わいで、びっくりしました。
東軍の2番手は伊藤三巳華さん。
千葉の127号線を走るドライバーたちに囁かれるワンピースを着た幽霊の噂。友人たちとのドライブ中、三巳華さんがその道路沿いで見たものは。これまた二段オチになっていまして、最後の最後でちょっと悲惨な解釈がつきます。三巳華さんならではの「視える」怪談が、ニュースによって裏づけられたという話。
西軍3番手は宇津呂鹿太郎さん。
関西の大手製鉄会社で警備の仕事をしている男性。彼が大きな旧社屋の警備中に体験した話。埃がびっしりつもった製鉄所の一室、という舞台設定はいかにも怪奇のムードが濃厚。宇津呂さんの怪談を聞くのははじめてですが、紙舞さんの語りとならんで、稲川淳二の血統をつよく感じました。擬音の使い方が、というわけではないんですよ。建物の使い方、建物の構造をつかって、怪奇のムードを盛りあげてゆく手腕が、あ、稲川ゴシック派だな、と。「稲川ゴシック派」という言葉はたっったいま作ったんですけどね。ジュンジストとしてはなんとも好もしい作風だ。
東軍3番手は丸山政也さん。
丸山さんには怪談実話コンテストの大賞受賞時、インタビューさせてもらったことがあります。その際、まだまだ実話のストックがありそうな感じだったので、楽しみにしていたのですが、いや期待にたがわぬ面白さ。タイのホテルで起こった奇談でした。幽霊譚ではなく、偶然の一致にまつわる話なんですが、それがなんとも気色悪い。お化けはまったく出てこない、超自然現象も起こらないんだけど、怖い。こういう話かなり好きです。
西軍4番手は三輪チサさん。
丸山さんが502号室にまつわる話をしたかと思ったら、三輪さんは呪われた503号室にまつわる話を披露してくれました。ある老舗ホテルの503号室では、いくら御札を貼っても人が死ぬ。リアリティある語り口と、最後に明かされる解釈が怖ろしい。心中カップルの死にざまなんて、目に浮かぶようでした。三輪さんにしても、朱雀門さんにしても、関西弁でしみじみ語られると、それだけで膝を乗り出してしまうようなところがありますね。
東軍4番手は長島槇子さん。
ホールのある深川にちなんだ怪談。文化4年に落ちて、多数の死傷者を出した永代橋。その大惨事にまつわる幽霊話を、芸者が語ってきかせるという筋立てです。もともと劇団員だったという長島さんだけに、演技は堂に入ったもの。『遊廓のはなし』などの長島作品同様、情緒纏綿たる江戸の怪奇をたっぷりと味わわせてくれました。脱帽。
西軍のトリを務めたのが宍戸レイさん。
なぜ宍戸さんが関西勢に?と思ったら、京都出身だったんですね。はじめて知りました。廃病院を訪れたグループが体験したという怪談で、ラストであっと驚く空間のねじれが発生します。理屈に合わないんだけど、いかにもありそう。時間が飛んだり、空間がねじれたりというのは怪談を集めているとよく聞くことです。生々しさがグー。
で、大トリは東軍の安曇潤平さん。
北アルプスの唐松岳で登山者が体験した怪談でした。下りの途中で休んでいると、どこからともなく「花いちもんめ」の歌が聞こえてくる。その歌が意味するものとは、という話でフルスロットルの安曇流山の怪談。前半のテントのくだりから、ラストの蕎麦屋でのシーンまで、山を知り尽くしている人でないと語れない充実作。一見のどかなのに、残酷な死がぴったり貼りついている怖さもいい。安曇さんにはいつか怪談CDを出してほしい。
というわけで、怪談競は終了。
別に紅白歌合戦ではないので、投票とか、日本野鳥の会とか、そういうのはありません。
ラストにもう一話、紙舞さんがボイラー室のある心霊スポットにまつわる怪談を語って(これも稲川ゴシック派の名品。空間のねじれ具合がタマラナイ)、この日の怪談会は終了。
終了後は打ちあげなんかもあったんですが、私は翌日が早いのでそそくさと失礼しました。黒木あるじさん、小島水青さん、水沫流人さん、岡部えつさんらとは少しお話できましたけど、それ以外の方々、ろくろくご挨拶もできずに失礼。そうそう。小島水青さんからは、「カルト怪談実話」の情報提供をさっそくいただきました。先日の記事、反響があってちょっとびっくり。
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それにしても、これだけ大々的なイベントを有志で作りあげる気力、労力は途方もないはず。主催者の皆さんにはお疲れさま、と言いたいですね。
今年、昨年は『幽』主催の「怪談ノ宴」がなかったですけど、その分こういうチャリティーイベントで怪談が聴けるのは嬉しいことでございます。書く怪談、読む怪談だけでなく、話す怪談、聞く怪談もまた盛りあがっているんだなあ、とあらためて感じたイベントでした。ちーん。
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