2020年7月31日金曜日

『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』ここだけのあとがき②

さてさてさて。
しばらく間が空いてしまいましたが、アンソロジー『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』ここだけのあとがき、その②をお送りいたします。『家が呼ぶ』をすでにお読みの方は「ほえー」と思っていただき、これからお読みになる方もやはり「ほえー」と思っていただければ幸いです。




高橋克彦さんの「幽霊屋敷」。
物件ホラーには大別して二つのパターンがありますね。ひとつは主人公の住んでいる家で怪奇現象が起こるというもの。そしてもうひとつが旅行や肝試しで足を踏み入れた家が幽霊屋敷であった、というもの。前者を「在住型」、後者を「探訪型」とでも呼んでおきましょう。わが国の物件ホラーの祖である『源氏物語』「夕顔の巻」に登場する「某院」のエピソードも探訪型ですよね。高橋克彦さんの「幽霊屋敷」も探訪型なんですが、実は訪れた先が主人公と深い関わりがある家で……というひねりがポイント。身内の家がお化け屋敷になるのはやっぱりイヤなもので、よく似たパターンは小池真理子さんの「命日」、福澤徹三さんの「廃屋の幽霊」でも使われています。
怪異描写はかなりショッキング、なのにちっとも下品でないのがすばらしい。生首ゴロゴロのくだりなど、色彩感覚豊かで中川信夫監督の怪談映画のようですね。




小松左京「くだんのはは」。
戦後怪奇小説のスタンダードナンバー。この作品については個人的に思い出があります。読む前からとにかく怖い、という前評判をたっぷり見聞きしていたんですね。なので筒井康隆編の名アンソロジー『異形の白昼』でやっと出会えた時には、「これが、あの……」と妙に厳粛な気持ちになったものでした。同じような体験を若い世代にもぜひしていただきたいと思い、超有名作ではありますが、あえて収録した次第。
個人的にはこの名作を「物件ホラー」の枠で紹介できたのもよかったなと。前々から思っていたんですが「くだんのはは」って和製ゴシックホラーなんですよね。広くて古いお屋敷が出てきて、住人は呪われていて、開かずの部屋があって、そこからすすり泣きの声が聞こえて。
あと、この作品ってバーネット「秘密の花園」のホラー版なんじゃないか……というのも常々感じていることなんですが、どんなものでしょう。「秘密の花園」でも夜な夜な、洋館の中ですすり泣きが聞こえてくるじゃないですか。初読時「これはホラー小説だな!」と思って読み進めたら、全然ちがってがっくりした覚えがあるので。小松左京先生も同じ思いから「くだんのはは」を書いたのではないか……というのは、まあ微妙に説得力がなさそうでありそうな妄想です。





平山夢明「倅解体」。
平山さんについてはですね、当初別の作品を採りたいと考えていたんです。『ミサイルマン』に収録されている「或る彼岸の接近」。これも相当にヘンな話で、狂った家族の逸話であり、物件ホラーであり、人形怪談であり、しかも壮大なクトゥルー神話でもある、という傑作なのです。がページ数がネックとなり、短いページ数でビシッと残酷と心霊を描ききった「倅解体」を収録する運びとなりました。もちろんこちらも傑作。どこまでがバイオレンス小説で、どこからが幽霊譚なのか、その騙し絵のような構造を楽しんでいただきたい作品。『「超」怖い話』的な世界と、『東京伝説』的な世界の融合ともいえます。
ちなみに歌手のあいみょんさんが最近『他人事』を愛読書にあげておられてびっくり。「鉄観音、熱く」「ジャスミン、熱く」という本作の名ゼリフは、あいみょんさんもきっと好きなはずだ!




というわけで、この項次回まで続きます。ほえー。


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