2019年9月22日日曜日

『おやすみ人面瘡』(角川文庫)に解説を寄稿しました。


白井智之『おやすみ人面瘡』(角川文庫)の見本が到着しました。
私は巻末解説を寄稿しております。




『おやすみ人面瘡』は、全身に人の顔状のコブが現れる「人瘤病」なる奇病が蔓延した世界を描いた、特殊設定本格ミステリー。
人瘤病患者とのプレイを売りにする仙台市内の風俗店「こぶとり姉さん」の従業員カブが、新たな患者を闇ルートで買い取るため、以前バイオテロが発生した海晴市に向かいます。一方、同市の中学校に通う少女は、幼なじみのツムギからある秘密を打ち明けられて……。カブと女子中学生、ふたつの視点から綴られるバッドテイストな物語は、やがて異様な真実へと繋がってゆきます。


ミステリー的な興味の中心となるのは、後半で起こるある殺人事件です。事件自体は割にシンプルなものですが、その真相をめぐる推理合戦が凄まじい。探偵の推理によって指摘される真犯人。水も漏らさぬロジックに感心したのもつかの間、すかさず別の探偵役によって新たな推理が提出されます。かと思うとまた別の探偵役が……という多重解決のもたらす幻惑感で頭がぐるぐる。ほとんどディックの『虚空の眼』。

デビュー作以来、多重解決の面白さを突きつめてきた白井さんの、これはひとつの到達点と言えるものだと思います(その後、連作集『お前の彼女は二階で茹で死に』でも、アクロバティックな多重解決に挑んでいますが)。


そして「怪奇幻想ライター」として注目すべきは、人瘤病という奇病のおぞましさ、気色悪さです。
解説にも書きましたが、古来人面瘡の恐怖を扱ったホラーは、洋の東西を問わず存在しています。谷崎潤一郎の「人面疽」 、E・L・ホワイトの「ルクンドオ」、手塚治虫の『ブラックジャック』にもありましたね。本書は質量ともにそれら「人面瘡幻想」の決定版とも言えるもので、出るわ出るわ、もうあらゆるところに人面が。

とりわけショッキングなのは、文庫版の135ページ。パルコという人瘤病患者が、ドアの向こうから姿を現すシーン。怪奇幻想ものに耐性のある人でも、思わず「あらら~」と呟きながら、本から数十センチ顔を離したくなるグロテスクさ。瀬下耽の「柘榴病」と、日野日出志の「蔵六の奇病」を足してローションを大量に垂らしたような、アッパー過ぎる生理的恐怖!映像化禁止!


さほど本格ミステリーに精通しているとは言えない私ですが、(ドロシー・セイヤーズ言うところの)「ミクロコスモス」的恐怖を描く作家としての白井智之さんには以前から大注目しておりまして、ブックサイト「好書好日」の連載〈朝宮運河のホラーワールド渉猟〉でも今年1月、白井さんにインタビューしています。
https://book.asahi.com/article/12079339


そんなわけで、喜んで解説を書き上げたはいいんですが、担当さんからの申し訳なさそうなメールで、枚数を大幅に勘違いしていたことが判明。10枚の原稿を大急ぎで6枚まで圧縮しました。そのためところどころ駆け足になってしまっている部分があるのですが……まあ私が悪いのであります。皆さん済みません済みません。

 
解説では気になる白井智之さんの人となりについても、軽く触れております(本当は軽くじゃなかったのですが、枚数の関係で圧縮したのです)。鬼畜、変態、特殊性癖……。やばすぎるイメージが先行する白井さんですが(失礼!)、果たしてその素顔とは? 答えは解説にて。
『おやすみ人面瘡』、面白いのでぜひお読みいただければ。9月25日発売です。




そして白井さん待望の新刊『そして誰も死なかった』はKADOKAWAより9月30日発売。こちらはクリスティばりの孤島ものみたいで、これまた面白そうですね。



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