2013年12月29日日曜日

「怪談of the year 2013」アンケート実施中!


先日お知らせした「怪談of the year 2013」、いよいよアンケートの募集が始まっている。
今年いちばん面白かった怪談本はどれか!?いま読むべき怪談作品は?
国内外の小説はもちろん、怪談実話もOK。アンソロジーや復刻企画もありだろう。
ふるってご応募いただきたい。


詳細はこちら


応募〆切は1月10日(金)20時まで。
先日のエントリーでも書いたが、怪奇幻想のジャンルを一般読者にアピールするためには、こうした年間ランキング企画は有効であり、必要なものだと思う。
さめていたところではじまらない。
あなたの好きな作品に、ぜひ熱い一票を!

応募フォームはこちら



さて。
このアンケート開始にあわせて、2013年怪奇幻想ジャンルの総括をするつもりでいたが、年頭への持ち越しとなりそうである。そそろそろ年賀状を出したり、帰省の準備をしたり、バイクの修理に行ったりしないといけないので、おそらく年内のブログ更新はこれが最後になるでしょう。


今年1年、このわけのわからないブログにおつき合いいただき、ありがとうございました。
2014年も相変わらず「幻想と怪奇」をテーマに、不気味かつポップにお仕事してゆきたいと思っております。出版業界各位、そして何より読者の皆さん、何卒よろしくお願い申しあげます。

では、よいお年を!




【冬休み特別企画】 ルートビアを飲んでみよう


ルートビア、という飲み物をご存じだろうか?

アメリカ文学を読んでいるとよく出てくる。
これまでも何度か目にしたことがあって、そのたびに気にはなっていたのだが、 ものごとを曖昧かつ穏便に済ませようとするわたくしとしては、「ま、ビールの一種なんじゃないの? ビアって言ってるし」とスルーしてきたのである。

が。
この冬、スティーヴン・キングの大作『11/22/63』を読んだことで、ルートビアへの興味がむらむらと高まってきた。で、調べてみるとビアとはいうものの、アルコールではないらしい。コーラのような清涼飲料だ。

wikipediaによれば、

ルートビア (root beer) は、アルコールを含まない炭酸飲料の一種。商品としてのルートビアは、アメリカ合衆国において19世紀中頃に生まれたとされる。バニラや、桜などの樹皮、リコリス(甘草の一種)の根(root; ルート)、サルサパリラ(ユリ科の植物)の根、ナツメグ、アニス、糖蜜などのブレンドにより作られる。使用原料やその配分は厳密に決まっておらず、銘柄によって様々なアレンジが施されている。

というものであり、18世紀の米国人が自家醸造でつくったハーブ飲料に起源があるという。日本では沖縄や小笠原諸島でよく飲まれている、という記述もある。

飲んでみたい。
ますます興味がわいてきた。

ちょっと話は横道に逸れるが、わたしの生まれた北海道は、「炭酸飲料といえばコーラよりガラナ」という歪んだ価値観が蔓延している。ガラナといっても、お父さんたちがあやしい雑誌の通販で取りよせるあのガラナではなく、いや、原材料はあのガラナと同じなのかもしれないが、とにかく「ガラナ」と呼ばれる炭酸飲料が一般的に飲まれているのだ。


(想像できるかい?冷蔵庫でガラナが冷えている日常を?)



北の地の涯で、なぜ南米原産といわれるガラナが飲まれるようになったのか、なぜアメリカ文化の象徴たるコカコーラがそれほど広まらなかったのか、それはたいへんに興味深い問題を孕んでいそうだが、検索すればどこかに書いてありそうだから割愛。

とにかく、何が言いたいかといえば、「北国の人間はちょっと炭酸にはうるさいぜ」という伏線なのである。この伏線は活かされないまま放置される可能性が大きいが、まあ、年末だからちゃっちゃと先へいこう。


とにかく、わたしはルートビアに興味を抱いた。
それというのも、『11/22/63』の描写があまりにも旨そうだったからだ。


ジョッキのいちばん上を覆っている泡ごしにルートビアをひと口飲んだぼくは、内心で目をみはった。なんというか……濃厚だった。とことんたっぷり滋味に満ちている。というか、それ以外にこの味をどう表現すればいいのかわからない。この五十年前の世界は、こうやって来なければ想像もできなかったほどの悪臭に満ちてはいたが、こと味の面でいえばくらべものにならないほどすばらしかった。
「最高にうまいね」ぼくはいった。(S・キング著、白石朗訳『11/22/63』上巻)



これは、1950年代末に時間旅行した主人公が、たまたま口にしたルートビアの美味しさに驚くというシーン。何気ないちょっとした一コマなのだが、過去と現在の対比が「ルートビアの味」という小ネタによって象徴的に描かれている。キング翁の筆力をうかがわせるシーンだ。そんなわけだから、このルートビアが実に美味しそうなんですね。


飲んでみたいなあ、と思っていたところ、たまたま輸入食料品店で見かけたので購入。昨晩さっそく飲んでみたのであります。して、そのお味は……といえば。


(A&Wの他にもさまざまなメーカーから出ているらしい)


ええとですね、バニラの風味が漂う「子供用咳止めシロップ」のような感じであります。つまり、咳止めシロップにバニラエッセンスを垂らしたら、こんな感じになる。同じことを二度書いているような気がするが、まあ要はそういう味なのであります。


色なんかはコーラを思わせますが、姻戚関係でいうと「ハトコ同士」くらいのものでしょうか。ちなみに我らがガラナとは「いとこ同士」くらいの近さにあると感じました。方言というのは、同心円状に広まっている、という松本清張の『砂の器』でおなじみの説がありますが(方言周圏論)、日本の北ではガラナ、南ではルートビアがそれぞれ飲まれているのがなんとも面白い現象だなと。いや、これはこじつけですが。
そんなわけで、決して嫌いな味ではない。できれば50年代末の、目をみはるほど旨いルートビアを飲んでみたいけど、それは叶わないので。
21世紀初頭の輸入食品店で、ちょっとだけキング世界を追体験してみた、という次第であります。


ともあれ。
時間旅行をテーマとしたキングの『11/22/63』は、50年代~60年代の文化が生き生きと描かれているので、こういう楽しみ方もできるのですね。たとえば旧い車が好きな人にも、お薦めの小説だと思います。



(各ミステリーランキングを総なめにした畢生の大作!)






2013年12月23日月曜日

エッセイ「怪談実話とラーメン」


『てのひら怪談 癸巳』(MF文庫ダ・ヴィンチ)がいよいよ発売となりました!!


 (カバーの造形は今回も山下昇平氏が担当)


こちらのブログを見ている方には説明不要かもしれませんが、上限800文字というユニークな怪談公募企画「てのひら怪談大賞」の第1回に寄せられた応募作品から、特に優れた73篇を選りすぐった傑作選です。

これまでにも『てのひら怪談』シリーズは何冊も刊行されていますが、これは「ビーケーワン怪談大賞」から「てのひら怪談大賞」へと名称変更して最初の傑作選となります。


で。
こちらの巻末に短めのエッセイを寄稿しました。
タイトルは「怪談実話とラーメン」
以前から百花繚乱の怪談実話ジャンルってラーメン業界に似てるよねえ、と思っていたので、そのあたりのことをつらつらと書いております。同時掲載は勝山海百合さん。二人ともビーケーワン怪談大賞には縁が深いので、そういう繋がりでお声をかけていただいたのかな、と思っております。

素敵な収録作品ともども、お読みになっていただけると幸いです。



また。
巻末収録のスペシャル解説対談(綿矢りささん×東雅夫さん)の取材・執筆も担当しております。こちらは綿矢さんがお気に入りの収録作を具体的にあげながら、東編集長とともに『てのひら怪談』の魅力を熱く語りつくす、という見逃せない内容になっております。

ホラー好きを公言する綿矢さんだけに(同対談によれば、怪談実話もお好きとか!)、目からウロコの指摘が満載です。こちらもあわせて是非どうぞ。



それでは皆さん、よいクリスマスをお過ごし下さい。




西崎憲編訳『怪奇小説日和 黄金時代傑作選』(ちくま文庫)
(とっても不思議なクリスマス・ストーリー、エリザベス・ボウエンの「陽気なる魂」を収録。一読茫然。最高にブキミです。クリスマスのお供にお薦め!)





【おまけコーナー 今日のあんこ】

意外と人気らしいこのコーナー。今日のテーマは「あんドーナツ」である。
甘いもの好きの中でも「子供の食べるもんだろう」と一段低くみられているような、永遠のB級菓子ですが、わたしは断然支持します。西洋渡来のドーナツで、あんをくるむというバテレン妖術的発想が素晴らしい。横溝正史の『髑髏検校』のように素晴らしい。山田風太郎の『外道忍法帖』のように素晴らしい。あ、決してあんドーナツが外道というわけじゃないですよ。

今日食べたのは、西荻のパン屋さん「藤の木」のあんドーナツ。2個セットで200円なり。
ドーナツ部分に手を抜いていないのが好感持てますね。大抵のあんドーナツは、ドーナツ部位がぺらぺらだったりしますが、藤の木はしっかりザ・ドーナッツしてます。
この味なら大人のあなたもきっとあんドーナツの魅力を再発見してくれる……のではないかな!





●藤の木
西荻窪駅北口徒歩3分。営業時間8時30分~19時。火曜定休。
https://www.facebook.com/fujinokipan


2013年12月22日日曜日

『このホラーが怖い!』99年版


今日はちょっと懐かしいムックを紹介したい。
『このホラーが怖い!99年版』(ぶんか社)である。



毎年この時期になると「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」など、各種ミステリーランキングが発表されるのが恒例となっている。
じゃあ、ホラーでこういう企画はないのか? あったのだ。実はこれまでに一度だけホラーに特化したランキング企画が開催されたことがあった。それがこの『このホラーが怖い!99年版』で、1997年6月から98年夏までを対象期間に、作家・翻訳家・評論家・ファンにアンケートを実施。「海外小説」「国内小説」「映画」の3ジャンルで、ベスト10を選出している。


1990年代後半、『リング』『パラサイト・イヴ』『黒い家』などのヒットによって、小説界にはちょっとしたホラーブームの動きがあった。ぶんか社は東雅夫氏を編集長に迎えてホラー小説専門誌の『ホラーウェイヴ』を創刊、牧野修の『屍の王』、友成純一『電脳猟奇』などのホラー単行本も出していたので、このムックもおそらくそうした流れから生まれてきたものだろう。

では一体どんなランキングだったのか?気になるその結果をお伝えしましょう。

【海外小説編】
第1位:ロバート・エイクマン『奧の部屋』(国書刊行会)
第2位:スティーヴン・キング『グリーン・マイル』(新潮文庫)
第3位:リチャード・レイモン『殺戮の〈野獣館〉』(扶桑社ミステリー)
第4位:ブリジット・オベール『ジャクソンヴィルの闇』(ハヤカワ文庫)
第5位:オーソン・スコット・カード『消えた少年たち』(早川書房)
第6位:ダン&ドゾワ編『魔法の猫』(扶桑社ミステリー)
第7位:モンテルオーニ『聖なる血』(扶桑社ミステリー)
第7位:岡達子編『イギリス怪奇幻想集』(現代教養文庫)
第9位:ナンシー・A・コリンズ『ゴースト・トラップ』(ハヤカワ文庫)
第9位:プレストン&チャイルド『地底大戦 レリック2』(扶桑社ミステリー)
第9位:スティーヴン・キング『デスペレーション』(新潮社)
第9位:クリストファー・ムーア『悪魔を飼っていた男』(東京創元社)


【国内小説編】
第1位:貴志祐介『黒い家』(角川書店)
第2位:京極夏彦『嗤う伊右衛門』(中央公論社)
第3位:皆川博子『死の泉』(早川書房)
第3位:倉阪鬼一郎『百鬼譚の夜』(出版芸術社)
第5位:瀬名秀明『BRAIN VALLEY』(角川書店)
第6位:井上雅彦監修『異形コレクションⅠ ラヴ・フリーク』(廣済堂文庫)
第7位:小林泰三『人獣細工』(角川書店)
第7位:朝松健『妖臣蔵』(光文社文庫)
第9位:東雅夫編『文藝百物語』(ぶんか社)
第10位:皆川博子『ゆめこ縮緬』(集英社)


海外小説編の1位が20世紀怪奇派の巨頭ロバート・エイクマン(当時すでに故人)、というあたりに、このランキングの「本気度」がうかがえる。鬼畜ホラーのリチャード・レイモンが3位というのも、当時の悪趣味文化ブームを思い起こさせてなんともはや……。『ジャクソンヴィルの闇』はフランス作家によるゾンビもの。キングの『グリーン・マイル』が2位なのは順当だろうが、『デスペレーション』はモンテルオーニ、ナンシー・コリンズら後続作家に抑えこまれた恰好だ。


(エイクマン初の邦訳作品集が40ポイントを獲得して1位に)


国内小説では、当時からビッグネームだった貴志祐介、京極夏彦、瀬名秀明がランクイン。ホラー勢からは小林泰三、朝松健がランクインしている。皆川博子の代表作『死の泉』もこの年だった。3位の倉阪鬼一郎『百鬼譚の夜』は、20世紀末のホラーブームを体験していない人には馴染みの薄い作品かもしれないが、当時、倉阪鬼一郎は国産ホラーにおける最注目新鋭の一人だった。『百鬼譚の夜』『妖かし語り』『赤い額縁』とつづいた波状攻撃に、われら怪奇小説党は本当にワクワクさせられたものである。9位の『文藝百物語』は今日の怪談実話ブームの先駆けとなった、画期的な百物語本。『闇の展覧会』 のような書き下ろしホラー競作集を、日本で本格的に展開させた『異形コレクション』のスタートも、この時期の大きなトピックだろう。


(国内編では『黒い家』が断トツの1位)



と、いうわけで。今ふり返ってみても興趣尽きないランキングなわけだが、こうしたランキング企画はこれ以降、ほとんどおこなわれていない。ぶんか社の『このホラーが怖い!』にしても、わたしが知る限り99年版しか出ていないはずである。

この手のランキング企画には、もちろん賛否両論があるだろう。たとえば「優れた作品であっても、ランキングから洩れたことで、黙殺されてしまう」というような。しかし、今日のホラー&怪談界には、その年に出た作品を総括し、とくに優れた作品を顕彰する、というシステムが欠けている。怪談実話も含めるなら、今年だけでも相当な数のホラー&怪談が刊行されているはずなのに、その多くはごく一部の読者の目にふれただけで、書店の棚から消えてしまう。これはやっぱりいいことではないなあ、と思うわけなんですね。

面白い作品がたくさん出ているのに、それを知る機会がない、というのはとても勿体ないことだと思う。上のランキングを眺めているだけでも、未知の作品への興味がふつふつと湧いてきたこととだろう。それと同じことが毎年起ってほしいなあ、と怪奇界隈で生活している人間としては痛切に思うわけである。

で、「ホラー界にもこんなランキング企画があるといいなあ」とあっちこっちで話していたのが天に通じたわけでもないのだろうが、昨年は『幽』編集部主催で「怪談オブザイヤー2012」というランキング企画が開催された。

 結果はこちら


ホラー&怪談系のランキングとしては、『このホラーが怖い!』から実に十数年ぶりの快挙である。幸い各方面から好評だったようで、「2013年」もすでに開催が決まっているらしい。書評家やライターだけではなく、一般読者からの投票も受けつけるようなので続報を待たれたい。動きがあったらこのブログでもお知らせしてゆくつもりです。その一助になれば、というわけではないけれども、海外&国内ホラーの2013年総まくりを近く執筆予定。ご期待あれ!

2013年12月20日金曜日

これが『いる?いない?のひみつ』だ!


半年ほど前だろうか、幻想文学の傑作『さようなら、うにこおる』を刊行したばかりの小島水青氏に中央公論新社でインタビューした際、小島氏が「実はこんな本を持ってきていまして……」と色あせた一冊の児童書をカバンから取りだし、見せてくれたことがあった。

タイトルは失念したが(講談社の『図鑑 怪獣の本』?)、世界各地の怪獣・幻獣を紹介した特撮・怪奇系のハードカバーの児童書で、そこには一角獣の紹介として、タピスリー『貴婦人と一角獣』が掲載されていた。『さようなら、うにこおる』をお読みになった方なら、フランス中世美術の逸品といわれる『貴婦人と一角獣』が、作品で重要な役割を果たしていることをご存じだろう。
小島氏の一角獣への興味は、子供時代、この本を手にとったところから始まっていたのである。

たしかこの話は『ダ・ヴィンチ』 のインタビュー記事では触れられなかったのだが、小島氏の幻獣愛が伝わるエピソードとしてとても印象にのこっている。





さて。
怪奇・特撮系の児童書といえば、わたしにもちょっとした思い出がある。
『宇宙人・怪獣・ゆうれい・超能力者 いる?いない?のひみつ』 という、学研から出ていた「ひみつシリーズ」の一冊で、初版は昭和56年。昭和を知らない方々のために一応西暦で書いておくと、えーっと、えーっと、1981年である。

この「ひみつシリーズ」は、『宇宙のひみつ』 とか『昆虫のひみつ』とか、科学・歴史・文化・その他諸学もろもろを、漫画でわかりやすく解説したシリーズものであって、 同社の「伝記シリーズ」とともにに、1980年代には大抵の書店や公立図書館の棚にずらっと並んでいた。

で、宇宙にも昆虫にもほとんど興味のなかったわたしは、このシリーズから『忍術・手品のひみつ』『古代遺跡のひみつ』など、いかがわしい匂いのするものを選んでは再読三読していたのであるが、なかでも特に怪しいオーラを発していたのがこの『いる?いない?のひみつ』 なのであった。

タイトルどおり、UFO、宇宙人、幽霊、未確認生物、超能力者などオカルト現象全般をエピソードとともに紹介、いるのかいないのかを考えてみよう、という主旨の児童書である。

が、この本は子供には怖すぎた。
コミカルな絵柄でスタートするのだが、 事件の再現シーンになると一転シリアスになり、恐怖の体験を生々しく伝えてくる。「ミニUFOをつかまえた中学生」「宇宙人にかたをたたかれた小学生」「ヒマラヤの雪男」……。夕暮れのなか猛スピードで飛ぶ小型の円盤の、ナスのようにどす黒い顔をした宇宙人の、狂ったように山小屋を破壊する雪男の、ああ、今思い返しても、なんと怖ろしかったことか……。
ここで受けたショック、宇宙人も雪男も幽霊もネッシーも怖いものなのだ……という暗黒のショックは、確実にいまの自分につながっているような気がいたします。


  

 



で、この本はほとんど読まずに放ってあったのです。
ほかの「ひみつシリーズ」は暗記するほど読みこんだのに、 この本だけは数えるほどしか読まなかった。それなのに、書かれている内容は脳のヒダにしっかり染みこんでしまって、忘れようとしても忘れられない。おかげでわたしは、姉と通っていた日曜学校のお祈りの時間、「ノストラダムスの予言が当たらず、1999年にみんな死なずに済みますように……」と必死に神様にお祈りするような子供になってしまったのです。

  (生涯最大のトラウマページ!)  



さて。
そんなこんなで数年が経過したある日、この『いる?いない?のひみつ』について妙な事件が起った。ほんのささやかな出来事なのだが、今思い返してみても「あれは、なんだったんだろう?」と首を捻らずにはおれない不可解現象である。

怪談実話を書いていながら、その手の現象にはまったくと言っていいほど縁のないわたしが体験した、数少ないエピソードである。先日、実家に帰って『いる?いない?のひみつ』を眺めていて、ふと思い出したので、ほかの実体験とともに『Mei 冥』 vol.3の連載「気味のわるい話」にまとめている。



興味のある方はご覧ください、って結局はこの投稿、宣伝なんじゃないの!?という疑いが浮上しますが、そうです!蓋を開けてみれば宣伝です!

読んでください!!

2013年12月17日火曜日

『幽』20号完成!


って、わたしが完成させたわけじゃないんですが、怪談専門誌『幽』20号が発売となりました。
早いものでもう20号。年2冊のペースで刊行されているので、次号ではついに創刊10周年となります。うへー。「最近老けましたね」と、『幽』編集部のRさんに言われるわけだ。



さて。
記念すべき20号の巻頭特集は「怪談文芸アメリカン」
アメリカで怪談?と思われる方もいるでしょうが、怪談を「地域性に根ざしたスーパーナチュラルな怪異を描いた文芸」と仮に定義するなら、アメリカにだって怪談はたくさんあることになります。

たとえば、アパラチア山脈一帯につたわるバラッドをモチーフにした「妖怪ハンター」的な連作、マンリー・ウェイド・ウェルマンの『悪魔なんかこわくない』なんて、モロに怪談だということができるでしょう(この作品は、翻訳家の中村融氏が「アメリカ怪談私の一冊」にあげていました)。




ラヴクラフトの作品にしても、ロードアイランド州プロヴィデンスという土地抜きには生まれなかったわけで、案外わたしたちのいう「怪談」の概念に近いものではなかったか……ということは東雅夫氏の「世界怪談紀行 ラヴクラフトの故地を訪ねて」をお読みになれば納得がいくかと思います。

同誌にはかのダンウィッチ(ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』の舞台)のモデルとなった、マサチューセッツ州アトル出身の日本文学研究家、ピーター・バナード氏も寄稿しています。氏の論考「アメリカの地方に顕れた宇宙的恐怖 ラヴクラフト、土俗、そして湖中に沈められた村へ」には、以下のような興味深い指摘もありました。


ラヴクラフトの作家的な姿勢は、H・G・ウェルズのような積極的に宇宙の可能性を考え込む作家より、むしろ柳田國男の方に似ているのではないかと思う。そして以上名を挙げた作品群は、言わばラヴクラフトの『遠野物語』 だと提案しても過言ではないだろう。


ほかにも、紀田順一郎×荒俣宏、風間賢二×東雅夫、のダブル対談など海外怪奇小説&モダンホラーを読んできた人間なら「ウラー!」と歓喜の声をあげずにはいられない充実の特集であります。

わたしは上記の風間賢二氏と東雅夫氏の対談の取材・構成、恒例のブックレビューコーナーでは花房観音さんの『恋地獄』を書評しました。ご覧いただけると幸いです。

さて。
『恋地獄』 といえば、先日発売となった『ダ・ヴィンチ』1月号にはこんなコメントも寄せていたのでした。
わたしの文章で「恋」という漢字が出てくることって、相当にレアなのではないかしら。「死」「霊」「怪」「奇」ならしょっちゅう出てくるんですけども。






【おまけコーナー 今日のあんこ】


西荻窪のあんこオアシス、越後鶴屋の「開運大福」です!
いつも名物の「粟(あわ)」を選ぶので、今日は「豆大福」と2種類購入。
さあ恋、じゃなかった、来い!
うむ。こちらのあんこは、非常にコクがあって、食べ応え充分。キングの『グリーンマイル』を一晩で読み終えたかのような充実感が味わえます。味の秘密は、ザラメなのだとか。
各種こしあん、粒あんがありますが、個人的には粒あんがお薦めでしょうか。


(写真は上が粟、下が豆大福)


あのEXILEもお土産にしているという(ほんまかいな!)こちらの大福。粟でも豆でも一律130円というお値段設定も嬉しいですね。西荻古本散歩のおともに是非どうぞ。



●越後鶴屋(えちごつるや)
西荻窪駅南口徒歩2分。 営業時間9時~18時。月曜定休。
http://www8.ocn.ne.jp/~omochiya/



2013年12月15日日曜日

『ダ・ヴィンチ』1月号発売中!


久々にお仕事のご報告。
『ダ・ヴィンチ』1月号が発売中である。




〈こんげつのブックマーク〉内にて、待望の新シリーズ『書楼弔堂』を発表した京極夏彦さんにインタビュー。

明治20年代、本が三階までぎっしり積まれた燈台のような異形の古書店に、さまざまな思いを抱えた者達がやってくる。店主の弔堂主人は、彼らの悩みにぴったりの本をセレクトし、差しだす……という本好きにはたまらないこの作品。
インタビューでは京極氏の本への思い、シリーズにこめられた企みについて語っていただいている。是非ご覧いただきたい。



ほかに1月号では元旦にNHKにて時代劇ドラマとして放映が決定している宮部みゆきさんの『桜ほうさら』の紹介記事、特集〈BOOK OF THE YEAR2013〉内で書評家の杉江松恋さんへの取材記事などを担当している。

また〈『幽』怪談通信〉のコーナーでは綿矢りささんと東雅夫『幽』編集長のスペシャル感満載な対談を取材!テーマは12月末発売予定の『てのひら怪談 癸巳』 である。
ホラー好きを公言する綿矢さんが『てのひら怪談』 をどう読んだのか?なお、この対談のロングバージョンは『てのひら怪談』 の巻末に掲載予定です。





そいから。
旧聞に属するけれども『ダ・ヴィンチ』12月号

ラムちゃんが『豆腐小僧』を手にしているこの号では、京極夏彦×高橋留美子の豪華対談(4頁)を取材しました。ほとばしる妖怪愛!サブキャラ愛!お年寄り愛!うーむー。これほど熱い対談がかつてあったでありましょうか。

〈『幽』怪談通信〉のコーナーでは傑作『恋地獄』を刊行したばかりの(当時)花房観音さんにインタビューしました。
『恋地獄』は生死の境をそっとなぞるような、妖しくも官能的な筆致が魅力的。2013年の重要作ですので、未読の方は是非!
(そろそろ出るはずの『幽』 20号にも書評を書きましたので、みてね)





【おまけコーナー 今日のあんこ】

巣鴨の名店「みずの」の塩大福。
弥生美術館で松本かつぢ展を見た帰り、ちょっとバイクで寄り道して購入。
絶妙な塩加減。平たいフォルムがまた愛おしいです。口にいれた瞬間、甘さと塩味がお上品な宇宙空間を形作るというか、とにかくたいへん美味しゅうございます。
ちなみにこちらのお店は塩大福で有名ですが、豆大福も実はとっても美味しいのですね。どちらもお薦めです。






●元祖塩大福みずの
JR巣鴨駅徒歩3分。営業時間9時~18時半。不定休。
 http://www.shiodaifuku.co.jp/index.htm 


2013年12月11日水曜日

『シルヴァー・スクリーム』遂に邦訳なる!


さてさて。
午後から仕事にでなければならないので、前置きもなく本題に入ります。
デイヴィッド・J・スカウ編のホラーアンソロジー『シルヴァー・スクリーム』がついに邦訳された!

 『シルヴァー・スクリーム』って何だ!?という方のために、まずは版元である東京創元社のサイトから引用させてもらおう。

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『シルヴァー・スクリーム』(創元推理文庫)
ロバート・ブロック/ジョー・R・ランズデール 他
デイヴィッド・J・スカウ 編
田中一江/夏来健次/尾之上浩司 訳



劇場(シアター)こそ、悪夢の聖地
映画にまつわるホラー作品を頼む──そんな編者スカウの呼びかけに応じた、ホラー界のスター作家たち。誰にも触れられていないのに突然体に傷がつくという怪異が映画監督を襲うウィルスンの傑作「カット」、青春の思い出が残るドライヴインシアターを再興した男を描く、ノスタルジックなウィリアムスンの「〈彗星座〉復活」など、怪作・傑作が満載の映画ホラー・アンソロジー!



「前口上」トビー・フーパー
     *
「幻燈」ジョン・M・フォード
「カット」F・ポール・ウィルスン
「女優魂」ロバート・ブロック
「罪深きは映画」レイ・ガートン
「セルロイドの息子」クライヴ・バーカー
「アンサー・ツリー」スティーヴン・R・ボイエット
「ミッドナイト・ホラー・ショウ」ジョー・R・ランズデール
「裏切り」カール・エドワード・ワグナー
「〈彗星座〉復活」チェット・ウィリアムスン




銀幕(スクリーン)から、恐怖がしたたる。
ホラー映画のタイトルを交えながらストーリーが展開するウィンターの異色作「危険な話、あるいはスプラッタ小事典」、重大な決意をした女性の姿を異様な迫力で描くスキップの「スター誕生」、閉館した映画館で男が出逢う戦慄の体験を綴るキャンベルの「廃劇場の怪」。最高のホラー作家たちが生み出した、この世にあってはならない悪夢が集う、究極の映画ホラー・アンソロジー。

「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」ロバート・R・マキャモン
「バーゲン・シネマ」ジェイ・シェクリー
「特殊メイク」クレイグ・スペクター
「サイレン/地獄」リチャード・クリスチャン・マシスン
「映画の子」ミック・ギャリス
「危険な話、あるいはスプラッタ小事典」ダグラス・E・ウィンター
「スター誕生」ジョン・スキップ
「廃劇場の怪」ラムジー・キャンベル
「カッター」エドワード・ブライアント
「映魔の殿堂」マーク・アーノルド
     *
「とどめの一劇(エンド・スティック)」デイヴィッド・J・スカウ

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というわけで、英米作家による映画ホラーを集めた伝説のアンソロジーが、この『シルヴァー・スクリーム』なのだ。原著刊行は1988年。25年の時を経て、ついに邦訳が実現したことはまことに喜ばしい。これは東京創元社からホラーファンに向けての、ビッグなクリスマスプレゼントだ!

さて。いま「伝説の」と書いた。
原著『シルヴァー・スクリーム』は、世界幻想文学大賞のアンソロジー部門にノミネートされたり、ローカス賞のアンソロジーベスト10に選出されるなど、海外ではすでに確固たる地位を占めているようである。


日本国内でもその知名度は低くない(だって、英語の読めないわたしが知っているくらいですから…)。

編者であるデイヴィッド・J・スカウの名、あるいは彼が中心的役割を担った80年代の〈スプラッタ・パンク〉ムーブメントとともに、『シルヴァー・スクリーム』 は各種解説でしばしば言及されてきた。

そこには、日本でも知名度の高いビッグネームに混じって、レイ・ガートン、リチャード・クリスチャン・マシスン(先日亡くなったマシスンの実子)、クレイグ・スペクター、ジョン・スキップなどなど、〈スプラッタ・パンク〉派の重要作家が一堂に会しているらしい。
しかも、テーマは映画。

 ロックやホラー映画などサブカルチャーとのかかわりを重要視してきた〈スプラッタ・パンク〉 派にとっては、もってこいのテーマではないか。読みたい。読みたいなあ。と、邦訳を心待ちにしていたのだが、これがなぜか出なかったのだ!

かつて扶桑社ミステリーからロックがテーマの『ショック・ロック』、追うもの・追われるものをテーマにした『罠』など、何冊ものテーマアンソロジーが刊行されたことがあり、そのタイミングで出てもおかしくはなかったのだが、なぜか『シルヴァー・スクリーム』だけは邦訳されなかったんですね~。


いや、出るぞ、という予告はあった。
『シルヴァー・スクリーム』 にも参加しているレイ・ガートンの怪作『ライヴ・ガールズ』の解説において、尾之上浩司氏はこう書いている。

「一方、〈スプラッタ・パンク〉仲間とつるんで編纂したホラー映画テーマのアンソロジーSilver Scream(1988)はベストセラーとなり、噂によると、ようやく日本でも訳出されるらしい」

『ライヴ・ガールズ』が文春文庫で出たのが2001年ですから、それから実に12年……!いやあ、どんな事情があったのかは知りませんが、なんにせよ出してくれて本当によかった。


昨日買ってきたばかりだから、まだ個々の作品には目を通していないのだが、巻末のデイヴィッド・J・スカウによる編者解説「最後の一劇」がふるっている。世に氾濫するお手軽なテーマアンソロジーを皮肉りながら、『シルヴァー・スクリーム』成立の舞台裏を明かし、参加作家とお気に入りの映画について饒舌に語っているのだ。

「趣向にこだわったものなどうまくいくはずはないと、とってつけたような〈吸血鬼もの〉 といった括りですませるものが多い。大物作家による駄作でお茶をにごすことに時間をついやした本もちらほら。ほかは、参加したがりの作家による、どんなものを書けばアンソロジストからOKが出るかを先読みし、それにあわせて書かれた小綺麗な作品のパッチワークばかりだ。」

「ほかのすべてのアンソロジーにどのような記事が加えられているか統計を取ってみてもらえば、嫌というほどわかるはずだ。そこには、著者名、略歴、過去の作品、そして、これみよがしの褒め言葉……といった、乾いた犬のクソのようなたわごとが並んでいる。」

「参加したがり」「犬のクソ」……従来の静かなホラーに反抗して、より過激な、扇情的でビビッドな、鮮烈なホラーを求めて立ち上がった〈スプラッタ・パンク〉ムーブメントの旗手らしい挑戦的な一文である。


編纂者デイヴィッド・J・スカウは、1955年生まれ。
『クロウ 飛翔伝説』のシナリオを手がけるなど映像業界と活字を股にかけて活躍している。代表作は世界幻想文学大賞を受賞した、短篇「赤い光」。
これは失踪したグラビアアイドルと写真家の物悲しいラブストーリーで、邦訳は『震える血』 (祥伝社文庫)に収録。
これが実に叙情性の高い作品で、「え、君、心はシャンソンじゃん。グラム・ロックじゃん!」と言いたくなるような名品なので、パンクという響きにおそれをなさず、抒情短篇ホラー好きは是非チェックしてみてほしい。
わたしはこの短篇で、スカウの大ファンになってしまった。


本が売れないといわれて久しい昨今。海外ホラーをめぐる状況もなかなか厳しい……のだろうが、まだ見ぬ海外作家、作品、アンソロジーを読みたいと切望しているファンはきっといるはず。今回の『シルヴァー・スクリーム』はそんな渇きを久しぶりに癒やしてくれた。版元の東京創元社には、心から感謝とエールを!
ウラー!!








デイヴィッド・J・スカウ(近影はIMDbより転載) 
将来はこんなおじさんになりたい