2011年12月25日日曜日

【新刊レビュー】 ブライアン・ラムレイ『幻夢の時計』

ブライアン・ラムレイのクトゥルー神話連作〈タイタス・クロウ・サーガ〉第3弾、『幻夢の時計』が発売されました。


 時空往還機に乗ってエリシアの地を訪れ、旧神クタニドと面会したアラン・ド・マリニーは、親友タイタス・クロウと女神ティアニアが絶体絶命の危機に瀕していることを知り、一路地球の〈夢の国〉を目指します。災厄の町・ダイラス=リーンで囚われの身となっているクロウたちを、マリニーは救いだすことができるのか?


 というわけで、今回の舞台はH・P・ラヴクラフトの佳品『未知なるカダスを夢に求めて』で描かれた別世界〈夢の国〉です。シリーズ前作『タイタス・クロウの帰還』で時空を超える長旅からやっと帰還したクロウ。今作でとうとうクトゥルー眷属邪神群=CCDとの全面対決なるか、と期待に胸を膨らませていた者としては、またしてもうまくはぐらかされてしまったような案配ですが、しかしこれはこれで面白い!


 壮麗なる夢幻郷を舞台に、おぞましい怪物・魔神たちとの戦いをヒロイックに描いた本作は、ラヴクラフトに霊感を与えたダンセイニ卿の作品、ひいてはアラビアンナイトやギリシャ神話の世界を連想させる、読んでいて実に「愉しい」作品で、ホラー作家にとどまらないラムレイの一面を窺うことができます。ヒロイック・ファンタジーとクトゥルー神話にひとしく熱烈な愛情を注ぐあたり、米国のリン・カーターと共通するところがあるような気も。





●ブライアン・ラムレイ『幻夢の時計』(夏木健次/訳 創元推理文庫 840円)




ラムレイ邦訳本の数々
左より『黒の召喚者』『タイタス・クロウの事件簿』『地を穿つ魔』『タイタス・クロウの帰還』。初めて手にとるなら邪神ハンターの活躍をまとめた『タイタス・クロウの事件簿』がおすすめ。古き良きブリティッシュホラーの伝統と、オカルト伝奇アクションの娯楽性が同時に味わえる名作ぞろいです。



 クトゥルー神話といえば、さっきも名をあげたリン・カーターの『魔道書ネクロノミコン外伝』も刊行されていますね。「ジョン・ディー文書」「サセックス草稿」など『魔道書ネクロノミコン』に収録されなかった秘密文書を収めた一冊のようです。
 そういえば10月にはクロウリー『ムーンチャイルド』&マッケン『怪奇クラブ』が創元推理文庫から突如復刊されるという、ちょっとびっくりな事件もありました。クトゥルー神話+西洋隠秘学がちょっとしたブームかのかもしれません。


●リン・カーター『魔道書ネクロノミコン外伝』(大瀧啓裕/訳 学研 2625円)

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