2023年5月9日火曜日

怪老人日乗:5月9日(火)

『新耳袋』をひもとくまでもなく、現代もキツネやタヌキに化かされる人は後を絶たない。唐突になにを言うておるのかといえば、昨日そんな体験をしたのである。まあ、お茶でも飲んで聞いてってください。

せっかくなので時間をさかのぼって話すが、あれは今から2600年前……ではなくて、昨日の明け方のお話。どうしても8日に送らなければならない原稿があり、午前3時にむっくりと起きてぎりぎりと原稿を書いていったのであった。ひとつ仕上げて7時。このまま寝たいが甘えるわけにはいかない。さらにぎりぎり書いて昼前に原稿仕上げ、送信する。

昨日(8日)は連休明けだからというわけでもないが、なかなかにハードな一日であった。某月刊誌の入稿と取材、〆切が重なってしまったのだ。でお昼まで某誌の入稿準備を進めて、身繕いして外出。取材である。いつもなら都内でやるのだが、今回は横浜方面。何も予定がない日ならぶらりと寄り道でもしてくるのだが、そうもいかず。トンボ返りである。

雑居ビルの一室を改造したレンタルスペースで取材。古いビルでなかなか感じがよかった。崎陽軒の本店がある側(東口というのか)なかなか行く機会がないが、昭和の残光が感じられていい雰囲気であった。取材無事終わり、写真はおなじみ有村蓮さん。駅で取材の電話入る。5月中に新たにインタビューと対談の取材が2ツ。

取材終えて飯田橋へ。K社にてそのまま月刊誌の入稿作業を、と思ったけれどさすがに眠くてたまらない。本をたくさん持ち歩いてぐったり疲れたこともあり、神楽坂のマッサージ店に予約を入れ、仮眠がてら40分揉んでもらった。ちょっと寝られてすっきり復活。

蕎麦屋でお夕飯たべて入稿作業にレッツゴー。まあこれはそれなりに時間がかかるので、終わったら22時半。遅くなったが帰るべいと電車に乗る。しかし物語はまだ始まったばかりであった。池袋から西武池袋線に乗り、座れたのを幸いとすこし寝る。はっと気づいたらそこは所沢。No、降りそこねた。仕方ない、折り返すか、と思ったがなんとなんと、終電が終わっているではないか。0時過ぎても一本くらいはあるだろう、と思っていたが、23時半くらいには上りは終わってしまうのだった。

さて参った。けれどもまあすこし楽しくもある。疲れたが非日常感がある。というわけで3駅行けるところまで歩いてみることにした。幸い途中までならレイトショーの帰りに一度歩いたことがある。深夜の散歩だ、深夜の市長だ。と歩き始めた。途中まではすいすいと進む。見覚えのある竹林なども現れる。しかしそのあたりで携帯の充電が切れ、マップを参照できなくなった。

そこからがまずかった。線路にぶつかればなんとかなる、と思い込みでずんずん進むが、茫漠たる住宅地が迷路のように広がっているのみ。郊外特有の行き止まりの多い道で、ぐるぐる回ったり、戻ったり、建売住宅がずらりと並ぶ町を彷徨った。車もいない、人もいない。耳をすますとはるか遠くから、タヌキ囃子のように電車の音が聞こえる。どこなんだ、線路はどこにあるのだ。

1時間くらい歩き続けて、思い切って方向転換してみたものの、まるで見当違いの西東京市に入り込んでしまい、いよいよギブアップ。冷や汗が出てきた。このまま店もないような住宅地で、朝を迎えることになるのか。いや、朝になっても帰れないのではないか。とりあえず明るくなっている方に向かう。歩いて、歩き続けると、そこは所沢の駅だった。つまり遭難者のように、ぐるぐると同じところ歩き続けて、大回りして出発地点に戻ってきたのだ。キツネにつままれたような気持ちであったが、徒労感の方が大きい。

12時50分。もう歩く気力も体力もないのでタクシーを待って(幸いまだタクシー乗り場には人がいた)帰った。タクシーの運転手さんが「よくいらっしゃるんですよねえ、降り損ねる人が」とあれこれ明るく話しかけてくるが、会話を続ける元気もなし。帰宅して1時半。まあ無事に帰れたのが幸いでありました。諸星大二郎のマンガか、福澤徹三の小説にでもありそうな夜の散歩の顛末。





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