2023年5月20日土曜日

怪老人日乗:5月20日(土)

およよ、もう20日?11日もご無沙汰しておりました。この間地球は二度滅び、宇宙は三度爆発しました。そのはざまを、そば屋の出前のスーパーカブが走り抜けていきます。時は戦国、桶狭間であります。

さてまったくもって意味が分からないのだが、昨日でツイッターを始めて5周年だそうだ。そういう通知、これまで出たことがなかったし、誕生日的な、あの何かがフリフリと降ってくるような仕掛けも出たことがないのだが、今回だけは仕方ないと思ったのか、ツイッターからお知らせがきた。のでツイートした。

もともとツイッターはやる気がなかった。というかネットを介した交流というものに明治人のような偏見があり、なにかこう不埒で助平な空間だと思っていたのである。男性や女性が楽しそうに会話して、趣味の話などで盛り上がって、どうにもけしからん、許しがたいと感じていた。このブログの読者はそろそろお気づきだろうが、わたしはこういう東海林さだお的な、他人の和気藹々をうらやむところ大な人間なのである。

5年前といえば割ともう最近だから、出版界でもツイッターをしている人は多く、「ツイッターで見ましたよ」「ツイッターで話しましたね」といった台詞は日頃よく耳にしていて、当時自分はやっていなかったのでしみじみと孤独を感じ、SNSは怖ろしい、凶悪事件の巣窟、現代社会の闇じゃ……と疑心暗鬼にかられてもいた。人は孤独から陰謀論に陥りやすいということがこのケースからよく分かる。おほん。

それが5年前、朝日新聞社の読書サイト「好書好日」に釣り上げていただき、〈ホラーワールド渉猟〉という連載をすることになって、無名なので少しでも宣伝に協力しなければまずい、連載が終わってしまう、と思ったのであった。それでこわごわツイッターのアカウントを取得した。しかし変に緊張していて、初日にやたらとんがった恰好をしてきた淋しい転校生のように、宇能鴻一郎の官能小説『むれむれ夫人』のフレーズをbotのように呟き続ける、という怪行動をとっていたため、電脳世界でから回るばかりであった。

とはいえ日々連載の宣伝などしているうちに少しずつフォローしてくださる方も増え、また〈ホラーワールド渉猟〉などでの取材を通して知り合った作家さん、この5年で編むようになったアンソロジーの読者さんとの交流も生まれ、という感じでツイッターが仕事の告知と情報収集の中心になっていったのは、自分でも予想していないことであった。

それまで出版業界の人脈といえばほぼ『ダ・ヴィンチ』『幽』方面に限っていたのだが、ツイッターはその枠を軽々と飛び越えて、さまざまな領域の人びと知り合うことができた。SNSというのは助平で不埒どころか、非常に有益で、ありがたいものだということを知った。知り合った方々は皆さん知的でユーモラスで礼儀正しく、いちばん不埒なのはあらぬ偏見を抱いていたこの私なのであった。うふん。

さてツイッターをしていて思い出すのは、大学時代に入っていた音楽サークルの部室、というかラウンジである。うちの音楽サークルは弱小で、部室を与えられていなかったから、ラウンジと呼ばれるフリースペースのテーブルを占拠して、部室代わりにしていたわけだが、そこにはいつも授業がない人、授業をさぼった人、授業にはなから行く気がない人、がいつも何人か溜まっていて、なぜかイカゲソのある大学オリジナルのハンバーガーショップで買ってきた昼食をとりながら、音楽を聴いたり、本を読んだり、阿呆な話をしたりしていたものだった。しかも20世紀も終わりに近いというのに、なぜか全員ベルボトムを履いていた。

そのラウンジからふらりと授業に行き、終わったらまた戻ってきて、阿呆な話をして家に帰る。ときには夜までラウンジにいる。あの出入り自由な感じ、すごくツイッターに近い気がする。毎日のようによく会うメンバー、たまにしか会えないレアキャラの先輩、何をしているのか分からない年齢不詳な人がいるのも、ゆるいサークル活動に似ているようだ。この年になって、あの感じをまた味わえるとは、思ってもみなかったことである。イーロン某の問題でツイッターがこの先どうなるか分からないが、卒業の時が来るまでこのゆるいラウンジみたいな場が続いてほしいものと思うが、さてどんなものであろうか。

近況や仕事の告知をあれこれ書こうと思って出てきたのに、ツイッター5周年の話で長くなってしまった。やるべきことは多い。月曜までに6つほど仕事を仕上げないといけない。側転をしながら去ることにしよう。さようなら。






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