2017年5月13日土曜日

五月の路上は鼻血でいっぱい

ゴールデンウィークも終わり、気づけば5月半ばである。


この時期に人を悩ませるものといえば五月病だ。
連休明け初日、よく仕事をさせてもらっている某誌の編集部を訪れたところ、とつぜん右の鼻から鮮血が噴きだした。どうやら体が全力で働くことを拒否しているらしい。
うーむ、我がずぼら体質のすさまじさよ。


だからこそ五月病になってしまう人の気持ちはよく分かる。
そりゃ一週間も休んだら、仕事に行きたくなくなるよ。フリーランスのわたしでさえ、久々に外出しただけで鼻血が溢れたのだ。いわんや会社員をや。その切なさ、苦しさは想像するにあまりある。
五月の路上は今日も誰かの鼻血でいっぱいだ。


目下五月病に苦しんでいる人に云いたいのは、あまり自分を責めるべきではないということだ。
世の中には頑張れる人もいれば、頑張れない人もいる。一生のうちにできる努力の総量は、もしかして生まれつき決まっているのではないか、とさえ思うのだ。
ずぼらなのは別に悪いことではない。中学時代の担任教師に「おまえは怠け者だ」とはっきり指摘されたわたしなどは、自己弁護も兼ねてそう思っている。


さて。
五月病の人におすすめの小説をあげておこう。
朝ベッドから出たくない。職場の人の顔を見たくない。そんなときテンションの高い小説など読む気にもならないだろう。ハーマン・メルヴィルの「代書人バートルビー」を読んで、マイナス方向の愉悦に浸るのはいかがだろうか。


バートルビーは真面目な代書人だが、理解できない性格の持ち主である。
雇い主や同僚が代書以外の仕事を頼んだとしても、控えめに、しかし確固たる口調で「せずにすめばありがたいのですが」と答え、決して応じようとはしないのだ。どんなに上司が忙しそうでも、仲間が困っていても「せずにすめばありがたいのですが」「せずにすめばありがたいのですが」。そうくり返すだけだ。とうとう業を煮やした雇い主はバートルビーを馘にする。その結果、思いもよらない出来事が……。


常軌を逸した行動とともに、バートルビーがどんどん人間ばなれした存在に感じられてゆく、後半の展開がすばらしい。ずぼらも極めれば超自然的恐怖の域に達する。こうなると鼻血を噴きださせるのはむしろ上司のほうだ。






ボルヘス編の『バベルの図書館』(国書刊行会)で読むことができるので、これを参考にぜひずぼら道のプロを目指してほしい。と、つまらない商業コラムのような落ちをつけてしまったな。こういう落ちはつけずにすめばありがたいのだが……。


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