と、新聞の見出しみたいなタイトルになってしまったが。
夢野久作が1936年に世を去ってから、今年でちょうど80年である。
関連書の刊行が相次いでいるので、まとめて紹介してみたい。
まずは由良君美『風狂 虎の巻』(青土社)。
碩学による評論集(初刊は1983年)の新装版で、「夢野久作の都市幻想」「自然状態と脳髄地獄――夢野久作ノオト」など、久作に関する論考を4編収めている。
個人的にこの本には思い入れがある。とにかく、見つからない本だったのだ。
大学院で夢野久作を研究していた時代(そんな時代もありました)、文献目録で見かけたこの本を図書館や古本屋で探しまくったのだが、とうとう見つけられなかった。
この歳になってやっと手に入れることでき、感無量、冠二郎。
『ユメノユモレスク』(書肆侃侃房)は夢野久作の恋愛小説「死後の恋」「押絵の奇蹟」「ココナットの実」 「瓶詰地獄」に、それぞれアルフォンス・イノウエ、杉本一文、林由紀子、宮島亜紀による銅版画の扉絵を付したもの。
怪奇幻想や猟奇、狂気というタームでくくられがちな久作は、その実、ロマンティックな恋愛小説やメルヘン、ルポルタージュも得意とした、スケールの大きい作家であった。本書のように多面体久作の知られざる一面に光を当てる企画、というのは今後もどんどんやってほしい。
乙女文学でもあるんだよなあ、久作。
末永昭二編『挿絵叢書 竹中英太郎(一) 怪奇』(皓星社)は、挿絵に注目して小説を読む全3巻のシリーズ。久作作品からは「押絵の奇蹟」「けむりを吐かぬ煙突」「空を飛ぶパラソル」の3作品が採られている。
竹中英太郎といえば乱歩の『盲獣』、横溝の『鬼火』などの挿絵が有名だが、久作作品も数多く手がけており、本書でもその名コンビぶりの一端を窺い知ることができる。
以後、「推理」「エロ・グロ・ナンセンス」と続く模様。
塩見鮮一郎編『被差別小説傑作集』(河出文庫)は、没後80年とは無関係の企画だろうが、久作の短編「骸骨の黒穂」を収めている。文庫ではなかなか読めない土俗的ミステリー短編だ。
8月末には創元推理文庫から『少女地獄 夢野久作傑作集』が刊行される模様。
こちらの収録作は「死後の恋」「瓶詰の地獄」「氷の涯」「少女地獄」の4編。
ちなみに「瓶詰の地獄」は西原和海さんのテキスト・クリティックによって、「瓶詰地獄」が正しいタイトル、ってことになったんじゃなかったかなあ(うろおぼえ)。
噂では某所でビッグな企画が進行中と聞いているが、こちらは正式なアナウンスがなされたらまた書かせてもらうことにしよう。
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