6月24日、創元推理文庫よりブライアン・ラムレイの〈タイタス・クロウ・サーガ〉第5弾『ボレアの妖月』が刊行される!
というわけで。
慌てて前作にあたる『風神の邪教』をホラー棚から引っ張り出してきて、読んだ。
実はこの作品、発売されてすぐに西荻窪の颯爽堂で購入していたが(颯爽堂R.I.P.)、読まずに放置してあったのである。というのもシリーズ第3作『幻夢の時計』がかなりファンタジー色の強い作品で、つい怪奇小説のテイストを求めてしまう私は正直「う~ん」という感じになってしまい……第4弾『風神の邪教』もすぐ読む気にはなれなかったのだ。
で、このほど予習のつもりで読みだしたのだが……これがめっぽう面白い!!
風の邪神イタカに従兄弟を殺されたテキサス出身の青年ハンク・シルバーハットは、クトゥルー眷属邪神群と対抗するために結成された〈ウィルマース・ファウンデーション〉に加入。テレパシー能力を活かして、対風神作戦〈イタカ・プロジェクト〉の指揮をとっていた。
しかし、ハンクの乗った調査機は邪神の手にとらえられ、消息を絶ってしまう。
それから4か月後、生死不明だったハンクから、地球のメンバーのもとにテレパシーが届いた。
イタカにさらわれた調査チームは、今、地球からはるかかなたに位置するボレア星にいるのだという。
ボレア星には、邪神イタカを崇める教団〈風の仔ら〉と、女王アルマンドラに率いられたグループとが対峙し、熾烈な戦いをくり広げていた。 ハンクらはほどなく後者に合流、アルマンドラのもと対イタカ戦に身を投じることになるのだが……。
冒険とロマンス、裏切りと陥穽、ライバルとの死闘、手に汗握る戦争シーン。
数々の魅力的な要素が組み合わさって、古風かつ骨太なエンターテインメントに仕上がっている。孤独をたたえた女王アルマンドラと異邦の戦士シルバーハットが恋に落ちるロマンティックな展開など、まるでライダー・ハガードの冒険小説のようだ。
今作から主人公を務めることになったシルバーハットの人物造形もいい。クロウやマリニーに比べても単純明快かつ行動的で、いかにもヒーロー然とした性格。それが複雑怪奇になりつつあったシリーズを、シンプルな娯楽路線に戻すことに貢献している。
この波乱万丈の物語の中で、特異な存在感を放っているのが邪神イタカである。
ピラミッドにまたがって雄たけびをあげたり、教団の連中を威圧したり、シルバーハットの妹に好色な目を向けたり……。作中に「イタカという邪神はいったいなにを考えているんだ?」という台詞があるけれど、まさにそんな感じ。ラムレイの描くイタカは妙に人間くさくて、巨大な駄々っ子とでもいうべき邪神なのだ。
それと。
読んでいてあらためて感じたのは、ラムレイという作家の健全さ。
ホラー界広しといえども、ラムレイほど「好漢」とか「快男児」とかいう言葉が似合う作家もいないだろう。書いている作品はド本格の超自然ホラー、しかし根本のところで陰湿さがないから、読んでいて暗い気持ちになることがない。妙な言葉だが、スポーツマンシップを感じるホラー、とでも言おうか。
この『風神の邪教』にも、ラムレイの健全さが十全に発揮されており、ラヴクラフトとは一味違ったクトゥルー神話の世界を堪能することができる。同じクトゥルー神話を描いていてもHPLはHPL、ラムレイはラムレイなのだ。
★
新作『ボレアの妖月』は、版元の内容紹介文によれば前作同様、舞台はボレア星。主人公も同じくシルバーハットのようだ。シリーズが今後どう展開してゆくのか、楽しみなことであります。
【追記】
以前の記事をあさってみたら、あれ?当時は意外に『幻夢の時計』を楽しめていたのかなあ?
http://tocroponto.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html
本の印象って、その時々で変わるもんです。
と、記憶力がボロボロであることを棚に上げまくる。人生も評価軸もグラグラの男、それが俺だ。
〈タイタス・クロウ・サーガ〉既刊
ブライアン・ラムレイ邦訳作品
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