2013年12月11日水曜日

『シルヴァー・スクリーム』遂に邦訳なる!


さてさて。
午後から仕事にでなければならないので、前置きもなく本題に入ります。
デイヴィッド・J・スカウ編のホラーアンソロジー『シルヴァー・スクリーム』がついに邦訳された!

 『シルヴァー・スクリーム』って何だ!?という方のために、まずは版元である東京創元社のサイトから引用させてもらおう。

--------------------------------------------------------




『シルヴァー・スクリーム』(創元推理文庫)
ロバート・ブロック/ジョー・R・ランズデール 他
デイヴィッド・J・スカウ 編
田中一江/夏来健次/尾之上浩司 訳



劇場(シアター)こそ、悪夢の聖地
映画にまつわるホラー作品を頼む──そんな編者スカウの呼びかけに応じた、ホラー界のスター作家たち。誰にも触れられていないのに突然体に傷がつくという怪異が映画監督を襲うウィルスンの傑作「カット」、青春の思い出が残るドライヴインシアターを再興した男を描く、ノスタルジックなウィリアムスンの「〈彗星座〉復活」など、怪作・傑作が満載の映画ホラー・アンソロジー!



「前口上」トビー・フーパー
     *
「幻燈」ジョン・M・フォード
「カット」F・ポール・ウィルスン
「女優魂」ロバート・ブロック
「罪深きは映画」レイ・ガートン
「セルロイドの息子」クライヴ・バーカー
「アンサー・ツリー」スティーヴン・R・ボイエット
「ミッドナイト・ホラー・ショウ」ジョー・R・ランズデール
「裏切り」カール・エドワード・ワグナー
「〈彗星座〉復活」チェット・ウィリアムスン




銀幕(スクリーン)から、恐怖がしたたる。
ホラー映画のタイトルを交えながらストーリーが展開するウィンターの異色作「危険な話、あるいはスプラッタ小事典」、重大な決意をした女性の姿を異様な迫力で描くスキップの「スター誕生」、閉館した映画館で男が出逢う戦慄の体験を綴るキャンベルの「廃劇場の怪」。最高のホラー作家たちが生み出した、この世にあってはならない悪夢が集う、究極の映画ホラー・アンソロジー。

「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」ロバート・R・マキャモン
「バーゲン・シネマ」ジェイ・シェクリー
「特殊メイク」クレイグ・スペクター
「サイレン/地獄」リチャード・クリスチャン・マシスン
「映画の子」ミック・ギャリス
「危険な話、あるいはスプラッタ小事典」ダグラス・E・ウィンター
「スター誕生」ジョン・スキップ
「廃劇場の怪」ラムジー・キャンベル
「カッター」エドワード・ブライアント
「映魔の殿堂」マーク・アーノルド
     *
「とどめの一劇(エンド・スティック)」デイヴィッド・J・スカウ

----------------------------------------------------------


というわけで、英米作家による映画ホラーを集めた伝説のアンソロジーが、この『シルヴァー・スクリーム』なのだ。原著刊行は1988年。25年の時を経て、ついに邦訳が実現したことはまことに喜ばしい。これは東京創元社からホラーファンに向けての、ビッグなクリスマスプレゼントだ!

さて。いま「伝説の」と書いた。
原著『シルヴァー・スクリーム』は、世界幻想文学大賞のアンソロジー部門にノミネートされたり、ローカス賞のアンソロジーベスト10に選出されるなど、海外ではすでに確固たる地位を占めているようである。


日本国内でもその知名度は低くない(だって、英語の読めないわたしが知っているくらいですから…)。

編者であるデイヴィッド・J・スカウの名、あるいは彼が中心的役割を担った80年代の〈スプラッタ・パンク〉ムーブメントとともに、『シルヴァー・スクリーム』 は各種解説でしばしば言及されてきた。

そこには、日本でも知名度の高いビッグネームに混じって、レイ・ガートン、リチャード・クリスチャン・マシスン(先日亡くなったマシスンの実子)、クレイグ・スペクター、ジョン・スキップなどなど、〈スプラッタ・パンク〉派の重要作家が一堂に会しているらしい。
しかも、テーマは映画。

 ロックやホラー映画などサブカルチャーとのかかわりを重要視してきた〈スプラッタ・パンク〉 派にとっては、もってこいのテーマではないか。読みたい。読みたいなあ。と、邦訳を心待ちにしていたのだが、これがなぜか出なかったのだ!

かつて扶桑社ミステリーからロックがテーマの『ショック・ロック』、追うもの・追われるものをテーマにした『罠』など、何冊ものテーマアンソロジーが刊行されたことがあり、そのタイミングで出てもおかしくはなかったのだが、なぜか『シルヴァー・スクリーム』だけは邦訳されなかったんですね~。


いや、出るぞ、という予告はあった。
『シルヴァー・スクリーム』 にも参加しているレイ・ガートンの怪作『ライヴ・ガールズ』の解説において、尾之上浩司氏はこう書いている。

「一方、〈スプラッタ・パンク〉仲間とつるんで編纂したホラー映画テーマのアンソロジーSilver Scream(1988)はベストセラーとなり、噂によると、ようやく日本でも訳出されるらしい」

『ライヴ・ガールズ』が文春文庫で出たのが2001年ですから、それから実に12年……!いやあ、どんな事情があったのかは知りませんが、なんにせよ出してくれて本当によかった。


昨日買ってきたばかりだから、まだ個々の作品には目を通していないのだが、巻末のデイヴィッド・J・スカウによる編者解説「最後の一劇」がふるっている。世に氾濫するお手軽なテーマアンソロジーを皮肉りながら、『シルヴァー・スクリーム』成立の舞台裏を明かし、参加作家とお気に入りの映画について饒舌に語っているのだ。

「趣向にこだわったものなどうまくいくはずはないと、とってつけたような〈吸血鬼もの〉 といった括りですませるものが多い。大物作家による駄作でお茶をにごすことに時間をついやした本もちらほら。ほかは、参加したがりの作家による、どんなものを書けばアンソロジストからOKが出るかを先読みし、それにあわせて書かれた小綺麗な作品のパッチワークばかりだ。」

「ほかのすべてのアンソロジーにどのような記事が加えられているか統計を取ってみてもらえば、嫌というほどわかるはずだ。そこには、著者名、略歴、過去の作品、そして、これみよがしの褒め言葉……といった、乾いた犬のクソのようなたわごとが並んでいる。」

「参加したがり」「犬のクソ」……従来の静かなホラーに反抗して、より過激な、扇情的でビビッドな、鮮烈なホラーを求めて立ち上がった〈スプラッタ・パンク〉ムーブメントの旗手らしい挑戦的な一文である。


編纂者デイヴィッド・J・スカウは、1955年生まれ。
『クロウ 飛翔伝説』のシナリオを手がけるなど映像業界と活字を股にかけて活躍している。代表作は世界幻想文学大賞を受賞した、短篇「赤い光」。
これは失踪したグラビアアイドルと写真家の物悲しいラブストーリーで、邦訳は『震える血』 (祥伝社文庫)に収録。
これが実に叙情性の高い作品で、「え、君、心はシャンソンじゃん。グラム・ロックじゃん!」と言いたくなるような名品なので、パンクという響きにおそれをなさず、抒情短篇ホラー好きは是非チェックしてみてほしい。
わたしはこの短篇で、スカウの大ファンになってしまった。


本が売れないといわれて久しい昨今。海外ホラーをめぐる状況もなかなか厳しい……のだろうが、まだ見ぬ海外作家、作品、アンソロジーを読みたいと切望しているファンはきっといるはず。今回の『シルヴァー・スクリーム』はそんな渇きを久しぶりに癒やしてくれた。版元の東京創元社には、心から感謝とエールを!
ウラー!!








デイヴィッド・J・スカウ(近影はIMDbより転載) 
将来はこんなおじさんになりたい


0 件のコメント:

コメントを投稿