2012年10月3日水曜日

裏声で歌へ、猟奇歌


あまり言ったことはないのですが、学部時代と院生時代、都合5年ばかり夢野久作の研究をしておりました。当然ものにはならず、学校の備品をつかってゾンビ映画を1本撮っただけで研究の世界からはスッパリと脱落したのですが、それでも夢野久作への興味は未だに尽きず、関連書が出ると、買ってしまうわけです。

で。

本日、大型書店でたまたま発見した本。
多田茂治『夢野久作と杉山一族』(弦書房)。お値段、2940円。うーむ。大型ゾイド一体分か。買うしかないのかなあ、と思ってよくよく内容を確かめて、ほっと一安心。以前沖積社から出ていた『夢野一族 杉山家三代の軌跡』の再刊のようです。



『夢野一族』は杉山茂丸(久作の父)、久作、そして久作の遺志をそれぞれの形で受け継いだ3人の息子たちについて調査した一冊で、久作作品のバックボーンがよくわかる好著。怪物的とも称される杉山茂丸の思想についても、わかりやすくまとめられておりオススメです。
沖積社版(すでに品切だとか)をお読みでない方は、この機会に是非どうぞ。




ついでに新刊チェック。買ったのは以下の3冊。
倉阪鬼一郎『赤い球体 美術調律者・影』(角川ホラー文庫)、石井光太『戦場の都市伝説』(幻冬舎新書)、『ナイトランド vol.3』(トライデント・ハウス)。


『赤い球体』は倉阪鬼一郎によるホラーの新シリーズ第1弾。歪んだ世界の色を「視る」ことができる青年画家を主人公とした、アートホラーのようです。一見ラノベ風の表紙ですが、倉阪鬼一郎のことですから、ライトで済むわけがないでしょう。ヘヴィーな展開を期待してます。
(追記:期待どおりのヘヴィーホラーでした)




『戦場の都市伝説』は新聞広告で知って、読みたいと思っていた本。パレスチナの「白い服を着た不死身の自爆テロ男」、カンボジアの「腹を切り裂こうとする幽霊」などなど、過酷な戦場で囁かれる都市伝説を紹介している貴重な一冊。こいつは面白そうですな。
(追記:実際、面白かったです。怪談めいたエピソードを多数収録。事実の重さに、胸をつかれます)




『ナイト・ランド vol3』は我が国唯一のホラー専門誌、第3号。創刊以来いいペースで刊行されているので頼もしい限りですが、内容も素敵です。まだ見ぬ新鋭&マイナーポエットと、定番大御所作家とのバランスがいつもいい按配です。


今回の特集は『異界への扉』。ベテラン勢ではリチャード・マシスンの「死にたくない」が嬉しい。前号巻末では、『妖女』&『異次元』特集の二本立てと予告されていましたが、小説は『異界への扉』の一本立て。
その代わり、『追悼 レイ・ブラッドベリ』としてブラッドベリ作品の新訳、井上雅彦などのエッセイを掲載しています。『ホラー翻訳家・那智史郎氏を偲ぶ』と題して、昨年亡くなった那智史郎氏の追悼ページも設けていました。
連載コラムでは笹川吉晴の『ホラー&ダークファンタジー書評 NIGHT LIBRARY』の連載がスタート。海外ホラーやクトゥルー状況に加えて、国内ホラー全体の状況を追えるようになりました。


これら3冊を買ったら結局『夢野久作と杉山一族』を買うよりも高くなってしまったわけですが……まあ、そんなことは宜しかろう(澁澤調)。


そうそう。
夢野久作といえば伊藤里和『夢想の深遠 夢野久作論』(沖積社)という研究書も最近刊行されています。

 
こちらはまだ未読ですが、『ドグラ・マグラ』のみならず、初期の童話『白髪小僧』や心霊主義小説『木魂』などにもページが割かれているようなので気になりますね。読まねばなりますまい。

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