2017年2月3日金曜日

『威風堂々~人間椅子ライブ!!』





いやはや、大変な目に遭った。


昨日は東北地方で取材が一件。
朝から家を出て、新幹線で現地入りをした。取材が無事に済んだのが14時すぎ。同行した編集さんとカメラマンさんと「せっかくここまで来たんだしね」と窓の外の雪を眺めながら遅めのお飯を食べていると、そのうちに後ろの席のビジネスマンたちが「へ~、新幹線が運休だって」とスマホを眺めながら話しはじめた。
はっはご冗談を。半信半疑のまま駅へ駆け戻ってみると、たしかにそこには「大雪のため終日運休いたします」の文字が。うッ。


しゃあない。在来線で帰りましょう。と、数十分遅れてきたちっちゃな電車に乗り換えたのが17時のこと。電車はしんしんと降る雪を避けるうようにノロノロ運転でしばらく進んでいったが、ふいにがったん、と小さく揺れて停車した。


「えー、雪巻き込みのため、しばらく停車いたします。雪かき作業員がこちらに向かっておりますのでそのままでお待ち下さい」


雪を巻き込むって何だ?ざわめく車内。窓の外を見ると、どんより暗い山を背後に、寂れた無人駅のホームが雪を被っていた。最寄りの都会から車で向かっているという除雪作業員を待つ間も、ホームにはみるみる雪が積もっていく。


「おれ、様子見てくるわ」
焦れたのか、父と大学生くらいの娘の2人連れ客の父親が、そう言い残してホームに下りていった。ドアの開閉とともに、大量の雪が吹きこんでくる。ホームを歩く彼の姿が、だんだん見えなくなってゆく。


ああ、これはホラー映画でおなじみのやつだ。
私は思ったね。あのお父さんがほどなく「ギャーッ」という悲鳴とともに姿を消し、彼を探しに行くための決死隊が結成されて、そのメンバーも行方不明になり、ついには残された乗客たちも一人、また一人と吸血鬼に殺されてゆき……。


まあ、幸いなことにそんなスティーヴン・キング「呪われた村〈ジェルサレムズ・ロット〉」(『深夜勤務』所収)みたいな惨劇は起こらなかったのだが、電車がやっと動き出すまでの約2時間、いつ化け物の赤い眼が吹雪の向こうに見えるのか、怖くてたまらなかった。





結局、自宅にたどり着いたのは深夜0時。家を出たのは朝の9時だったから丸々1日出ていたことになる。うち仕事をしていたのは約1時間のみ。あとはずっと移動である。
そんな苦役を耐えられたのは、一緒に動いていた編集さんとカメラマンさんが音楽好きで気のいい方々だった、というのが大きい。


それと音楽プレイヤーに買ったばかりの人間椅子のアルバム『威風堂々~人間椅子ライブ!!』を入れていったので、退屈することがなかったのである。




『威風堂々』はこのところ絶頂期を迎えている人間椅子の最新ライヴアルバムだ。
数年前に出た『疾風怒濤』が増えてきた新規ファンに向けたベスト&入門編的な内容だったとするなら、今回の『威風堂々』はいわば応用編。
全キャリアを網羅したマニアックかつ新鮮な選曲で、とりわけディスク1には「さあ、どうだ」と言わんばかりにプログレッシヴなナンバーが並んでいる。
難曲「羅生門」の再現度の高さには驚かされるし、ドゥーム&狂気な初期の名曲「人間失格」はスタジオバージョンよりはるかに怖くなっている。


そして、クトゥルー神話に興味がある人にぜひ聞いてもらいたいのは、ディスク1に収録されている「宇宙からの色」「時間からの影」「狂気山脈」のラヴクラフトオマージュ3曲。


今回のライヴ盤、和嶋慎治のギターの音色がとにかく凶悪凶暴で、「宇宙からの色」なんてゴジラが出てきそうだし、「時間からの影」のイントロの異次元表現にも凄みが漂う。「狂気山脈」はラヴクラフトとシャンバラ幻想を重ねて表現したオカルトチックな雰囲気の傑作だが、もともとヘヴィだったリフは重さ5割増しで演奏されており、地の底から這い出る何かがたしかに見える!


たった3人で(しかも生演奏で)原典のもつコズミックな感覚に、ここまで接近しえたのは驚異としか言いようがない。
ハードロックに興味はないよ、という人でもラヴクラフト中長編の持つあの「異次元が悲鳴をあげているような感じ」が好きならきっと楽しめるはずだ。



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