2014年12月31日水曜日

お世話になりにけり


というわけで、今年最後の甘味類、人形町の重盛永信堂の人形焼きをいくつかぱくつきながら、年賀状をざざざと書き、「お祈り申し上げます」の「祈」の字は、しめす偏だったかころも偏だったかわからなくなって、自らの脳力低下をかみしめつつ、薄皮からあふれ出る昔風のあんこも味わっていると、2014年ははや暮れようとしているのであります。



今年は子供が生まれたり、引っ越したり、私生活でもいろいろと変化の年でありましたが、仕事方面では相も変わらず、horrorとterrorとweirdな領域を中心に執筆することができ、怪奇幻想ライターとして幸福な一年であったなと思っております。
お世話になった諸方面には感謝、深謝であります。



で。
ざっと2014年の怪奇文壇を回顧してみますと、まず大御所作家、人気ベテラン作家陣による怪談回帰のような現象があり、小池真理子のその名も『怪談』を筆頭に、浅田次郎『神坐す山の物語』、高橋克彦『非写真』、小野不由美『営繕かるやか怪異譚』。いずれもさすがのハイレベルで、14年を回顧するならまずはこの辺を読んでいただきたいところ。また、唯川恵によるエロティック怪談集『逢魔』の試みも印象に残る。



他にホラー&怪奇幻想ジャンルの注目作を思いつくままに、宮部みゆきの時代怪獣小説『荒神』、京極夏彦『遠野物語拾遺retold』、石川緑『常夜』、雪富千晶紀『死呪の島』、勝山海百合『月ノ森の真弓子』、山田正紀『クトゥルフ少女戦隊』、牧野修『呪禁官 百怪ト夜行ス』、黒史郎『失物屋マヨヒガ』、三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』などがあり、いや、まだまだ取りこぼしがあるような気がするが、きりがないので次に行こう。



怪談回帰といえば、御大・荒俣宏による『怪奇文学大山脈』全3巻は歴史的偉業で、英米圏にとどまらず海彼の怪奇文学をトータルに概観しようという壮大な試み、ただただ学恩に浴するのみ。海外ものに話を移すと、井上雅彦のアンソロジー『予期せぬ結末』が3巻まで出ていて、編者の愛する「奇妙な味」の再評価に貢献している。また、ホラー専門誌『ナイトランド』が、『ナイトランド・クォータリー』として復刊することが決まったのも2014年の嬉しいニュース。ホラーを扱うメディアはいくらあってもいい。雑誌の話題がでたついでに触れておくと、怪談専門誌『幽』がメディアファクトリーから角川書店へ移籍。それにともなって、『ダ・ヴィンチ』から『幽』を紹介するコーナーがなくなってしまったのは残念なことのひとつ。再度いう。ホラーを扱うメディアはいくらあってもいいのであるよ。



で、あとはなんだ。怪談実話だ。
実話業界も再編が進んでいる印象で、王道路線としては中山市朗『怪談狩り』シリーズがファンの期待に応え、新鋭郷内心瞳が『拝み屋郷内 怪談始末』『拝み屋郷内 花嫁の家』で大いに気を吐いた。近年の『「超」怖い話』を支えてきた松村進吉が、私小説風身辺雑記と怪談実話の融合を目論んだ『セメント怪談稼業』は、「怪談実話はいかにしてリアルを保ちうるか」へのひとつの回答であり、このような試みは同時多発的にあちこちで起こりそうな気がする。



怪談とリアルといえば、小中千昭『恐怖の作法 ホラー映画の技術』が同様のテーマを扱った格好の理論書。Jホラーは怪談実話に学んだことでリアルを手に入れた。2010年代は逆に、怪談実話が他ジャンルから学ぶべき点も多いはずである。稲生平太郎&高橋洋『映画の生体解剖』と併読することで、映像畑で展開してきた狂気の旅に触れられるであろう。失禁せよ。



ほかにも触れたいアンソロジー、研究書、雑誌企画、海外文学、漫画、映画などあるはずだが、目下カオスを極める書庫の大掃除もしなければならないので、今日はこの辺で失礼したい。キャラクターノベル化したジャンルホラーをどう位置付けるのか、という問題もいつかは書かねばなるまい。それはまた来年以降の宿題である。



ちうわけで。
ホラーと怪奇幻想を愛する皆さま。
くれぐれもよいお年をお迎えください。
来るべき新年が皆さまとホラージャンルにとって、よき一年となることを祈っております。

2015年もどうぞよろしくご愛顧のほど、お願いいたします。


   
                     怪奇幻想ライター  朝宮運河識



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