2014年3月4日火曜日

【新刊情報】 2月に出た怪奇幻想文学



気がつくともう3月である。
井の頭公園脇にバイクを駐め、咲きほこる梅林に見とれてそぞろ歩いていたら、アウチ、駐車禁止を取られた。お陰で今日書いた原稿の稿料はすべて吹っ飛びそうな予感なのだが、それでも「ま、いいか」と思えるくらいに春なのである。


さて。
2月に出た怪奇幻想文学を紹介する。例によって書店巡回のお供とされたい。





まず国内フィクション部門。
飴村行の2年ぶりの新刊『路地裏のヒミコ』(文藝春秋)が最注目作だろう。何もそこまで…といいたくなるような太田蛍一のカバーイラストも潔くっていい。


 


ラヴクラフトオマージュ競作集〈クトゥルー・ミュトス・ファイルズ〉からは、『クトゥルーを喚ぶ声』(創土社)が登場。田中啓文、倉阪鬼一郎の小説、鷹木骰子のコミックを収録する。
〈ふしぎ文学館〉からは瀬名秀明の短篇選集『夜の虹彩』(出版芸術社)が出た。江坂遊の『チョコ★ド』(樹立社)は全作が国内外作家へのオマージュになっているショート・ショート集。
長島槇子『パリの舌人形』(KADOKAWA メディアファクトリー)は、ネット配信されて人気を集めた〈エロ怖〉作品の単行本化。世界各国を舞台にエロティックな幻想譚が展開されている。
久世千歳『えんまと希望の星 幽霊少女と地獄の詐欺師』(中央公論新社)は、「不思議で切ないファンタジック・ホラー」とのこと。


 


今月の角川ホラー文庫は、櫛木理宇 『ホーンテッド・キャンパス 5 恋する終末論者』、田中啓文『オニマル 異界犯罪捜査班 2 結界の密室』、藤ダリオ『演葬会』の3冊。
TO文庫は矢崎存美『キルリアン・ブルー』、福谷修『鳴く女』の2冊が出ている。前者はかつて角川書店より刊行されたものの文庫化。アルファポリス文庫からは二宮敦人の「!」シリーズ第4弾『!!!!』が登場。いまや文庫書き下ろしレーベルは、ホラージャンルの重要供給源である。タソガレ文庫もハルキホラー文庫もがんばれ!!


時代小説文庫はあいかわらず空恐ろしくなるほど出ているが、武内涼『妖草師』(徳間文庫)、高橋克彦『空中鬼・妄執鬼』(日経文芸文庫)、瀬川貴次『ばけもの好む中将 2 姑獲鳥と牛鬼』 (集英社文庫)あたりは、怪奇性ないし幻想性を帯びた作品といえよう。



 



海外作品では、 メイ・シンクレア『胸の火は消えず』(創元推理文庫)の刊行がビッグニュース。モダン性と伝統性をもちあわせたシンクレアの怪談を、仙人・南条竹則の名訳で読むことができる。怪奇幻想ファンなら必携の一冊だろう。

 


ブライアン・エヴンソン『遁走状態』(新潮社)は、2010年世界幻想文学大賞の候補作となった短篇集。「ホラーもファンタジーも純文学も超える驚異の短篇集、待望の邦訳刊行!」ということであるらしい。訳者は柴田元幸。これは面白そうだ。
『対岸』(水声社)は『石蹴り遊び』で知られるアルゼンチンの幻想作家、フリオ・コルタサルの処女作品集。実験的なものでは、116の旅のエピソードからなるというオルガ・トカルチュク『逃亡派』(白水社)にも注目したい。



アンソロジーならこの2冊。『自分の同類を愛した男 英国モダニズム短篇集』(風濤社)は、一時大戦前後のモダニズムの雰囲気が味わえるという、マニアックな好企画。収録作家はサキ、チェスタトン、ウルフなど。
『もっと厭な物語』(文春文庫)は昨年刊行された『厭な物語』と同趣向のテーマアンソロジーだが、今回は夏目漱石、氷川瓏(渋い!)など、国内作家もチョイスされている。これまたオススメである。


 

 



古典SFを絶賛復刊中の文遊社からはデイヴィッド・リンゼイの大作『アルクトゥールスへの旅』が出ている。アヴラム・デイヴィッドス『どんがらどん』(河出文庫)は、奇想コレクションから出ていた同タイトルの文庫化。編者は故・殊能将之。



つづいて怪談実話ジャンル。
『怪談実話コロシアム 群雄割拠の上方篇』(MF文庫ダ・ヴィンチ)は、関西方面で活躍する怪談作家たちの競作集。『新耳袋』の中山市朗、久しぶりの怪談実話を読めるのが貴重だ。
竹書房文庫からは黒木あるじ他が参加の『怪・百物語』、明神ちさと『怪記事典 黒血ノ版』、神沼三平太『崩怪』の3タイトルが登場。

東雅夫監修の『恐怖通信鳥肌ゾーン 5 腹話術』は相変わらず好調の様子。毎回凝った趣向のオムニバスの外枠(黒史郎が担当)が楽しみなシリーズでもある。


評論・その他部門では、『夢野久作 あらたなる夢』(河出書房)がまずはマストバイの一冊。未収録作品を掲載するなど、久作ファンなら見逃せないムックである。なお夢野久作については、近くどこかで大きな動きがあるらしい、という噂を風の便りにきいた。漠然とした話ですみません。
山ン本眞樹『怪の壺 あやしい古典文学 復刻版』(学研)は、2010年に刊行されて話題を呼んだ古典怪奇実話集の復刻版。当時入手しそこなった人はぜひこの機会に!雑誌『仙台学』voi.15(荒蝦夷)は、「震を描き災を想う 東日本大震災3年目の作家たち」と題して、震災と文学のかかわりを特集。第3回みちのく怪談コンテストの結果発表もある。

 


野口武彦『「今昔物語」いまむかし』(文藝春秋)は碩学による「今昔」論。 『山窩奇談』(河出文庫)はサンカ研究者・三角寛初の文庫化作品。すごいなあ、最近の河出文庫は。
冨田章『ビアズリー怪奇幻想名品集』(東京美術)はまだ現物をチェックできていないが、ビアズリーの作品紹介と伝記だろうか。



最後にコミック。
諸星大二郎『夢見村にて 妖怪ハンター 稗田の生徒たち』(集英社)、「妖怪ハンター」 シリーズ久しぶりの新刊。これはもう面白いに決まっているでしょう。買います。
楳図かずお『蝶の墓 不思議な蝶の怪奇ミステリー』(講談社漫画文庫)、「水木しげる漫画大全集」の新刊『062 のんのんばあ他』『082 妖怪変化シリーズ全』(講談社)も出ております。
 





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【おまけコーナー 今日のあんこ】


探偵小説の世界に「三大奇書」と呼ばれる作品があるように、豆大福の世界にも「東京三大豆大福」がある。そのうちのひとつ、泉岳寺の松島屋にわれらがバイヤーがついに足を踏み入れた。
しかし、さすがは三大名店である。すでに豆大福は売り切れだったらしく、きび大福を入手して帰ってきた。

で、食べました。
なるほど。 きびの粒がぷちぷちしていて、結構ワイルド系の舌触りだ。しかし、あんことの調和が素晴らしく、橘外男作品でいうなら『逗子物語』のような総合的なまとまりがある。別に橘外男でたとえなくてもいいんだが、きびのぷちぷちした食感がなんとなく、橘外男とか、夢野久作とか、そっち系のテイストなのである。ちょっと小ぶりで、ひとくちサイズなのがまたいい。






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