2013年7月3日水曜日

読み給え!『古きものたちの墓』


新宿へ取材に出たついでに、紀伊國屋書店にて新刊チェック。
アマゾン氏からのメールで知った『古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待』(扶桑社ミステリー)がすでに並んでいたので、購入してきました。

これは昨年出た『クトゥルフ神話への招待』に続く、扶桑社文庫オリジナルのクトゥルー神話作品集第2弾。帰ってきてさっそく読了しましたが、ううむ、面白かった。




収録作はラムジー・キャンベル「ムーン・レンズ」「湖畔の住人」、コリン・ウィルソン「古きものたちの墓」、ブライアン・ラムレイ「けがれ」の4編。


ラムジー・キャンベルの2作はともにお馴染み(?)ゴーツウッドとその周辺を舞台にした神話作品。特に「湖畔の住人」が力作です。湖畔の屋敷を買い取った芸術家が、次第に狂気と戦慄に犯されてゆく。その背後には、彼方の世界から飛来した〈グラーキ〉と呼ばれる怪物の存在が……というお話で、『グラーキの黙示録』などキャンベル独自の神話アイテムが登場します。展開自体はオーソドックスなものですが、全体に漂うブリティッシュ怪奇の雰囲気と、邪神グラーキの気色悪さがたまらない。

「けがれ」はラムレイにしては珍しく、アクションやオカルトを抑えた静かなホラー。海辺の田舎町に移住した医師と、近隣住人たちとのやり取りが、じょじょに綻びを見せてゆき、最終的にはエッ!?という所に着地するという老練な作品です。


で、なんといっても最大の目玉はコリン・ウィルソンの中篇「古きものたちの墓」。祖父から南極の古代遺跡存在の可能性について聞かされた主人公が、エジソンやテスラにも匹敵するという天才科学者とともに現地調査におもむく、という物語でラヴクラフトの『狂気の山脈にて』がベースになっています。


極地探検家リチャード・バードが撮影したという南極点の巨大な空洞、先史時代の南極が描かれているという古地図「ピリ・レイスの地図」といった南極をめぐるさまざまな「伝説」から語り起こされた物語は、やがて祖父と孫、世代を超えた二度の南極探検へと展開してゆきます。雄大なスケールで描かれる、南極怪奇冒険談。
コリン・ウィルソンの小説はややもすると思想が前面に押し出されがちですが、 この作品にかんしてはホラー要素との割合も絶妙だと思います。ショゴスもオールドワンズもばっちり登場!


(ピリ・レイスの地図/wikipediaより)


作中「ピリ・レイスの地図」の研究家として登場するチャールズ・ハプグッドは、実在の人物。ハプグッドの研究に関する詳細は、コリン・ウィルソンの著書『アトランティスの遺産』に詳しいです。こちらを読んでおくと、「古きものたちの墓」の前半部分がより分かりやすいかも。どうでもいいけど、この本は間違えて2回買ってしまったという苦い思い出があるのだった。




クトゥルー神話らしい直球勝負の怖さと、英国作家ならではの雰囲気醸成のうまさ。その両面が味わえる好アンソロジーでした。怪奇小説ファンはもちろん、最近クトゥルー神話を読み始めた、という人にもお薦めでしょう。







ちなみに、紀伊国屋でほかに購入したのは『ミステリマガジン』8月号(早川書房)と、福澤徹三『忌談』(角川ホラー文庫)の2冊。

『ミステリマガジン』は幻想と怪奇特集で、テーマは「天使と悪魔」。
お目当ては井上雅彦の最新短篇「天使が来たりて」。喫茶店の常連客が、天使にまつわるエピソードを語り合う、という『怪奇クラブ』風の作品で、天使を扱った作品のアンソロジーを内包している、凝った趣向の幻想譚です。

ほかに三津田信三「霧屍疸村の悪魔」、ヘンリイ・スレッサー「刑罰」、都筑道夫「悪魔はあくまで悪魔である」、セリス・スコット・フォレスター「ミリアムの奇跡」、ジョン・コリア「ボールを追って」を掲載。



福澤徹三の『忌談』は超自然的要素が薄い、どちらかといえばリアルに怖くて痛い話のショーケース。どれも脳天にビリビリッときますが、最終話の「禁区」がとりわけすごい。『悪魔のいけにえ』というか『サランドラ』というか。 とにかく見たくない、触れたくない、考えたくないダークサイドのお話でした。 なお、本屋さんで買うとハッケンくんストラップがもらえます。





次回はすでに発売中の『幽』19号の紹介をする予定。
特別コーナー「今月のおこづかいで買うべき本」もやらないとなあ。
狂気!
狂気!


1 件のコメント:

  1. 尾之上浩司2013年7月5日 12:50

    ご購読、ありがとうございました!
    第三弾を作ることができそうなので、ご期待ください!

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