2012年8月23日木曜日

カルト怪談実話ヴィンテージ・コレクション③ 朝倉三心著『私は性霊に犯された!!』(正・続)


……専門学校生のゆかりは、毎晩のように六本木のディスコに遊びに出かけていた。時はバブルまっさかり。お立ち台で踊る彼女は、男性たちの視線を釘づけにしていたという。

そんなある夜のこと。たっぷりと踊りまくったゆかりは、いつものように友人の車に乗せてもらって、家路についたが、ふいに友人が「兄の家に用がある」と言いだした。行きがかり上、ゆかりも友人の兄の家に立寄ることになった。

さて、そのお兄さんの家の壁には、天狗の面がかかっていた。興味をもったゆかりが面をつけておどけてみせると、大阪出身の友人が「あら、すごい。ミス天狗さんの踊りみたいやわ」(原文ママ。「ミス天狗さん」って何だ?)と褒めそやす。ゆかりは結局、その面を借りてゆくことにした。

その晩のことである。
寝床に入っていたゆかりは、ふいに目を覚ました。天狗の面の鼻が、さっき見たよりもツヤツヤと光っている。「天狗さん、天狗さん、どうしてお鼻が大きいの」そんな歌を口ずさみながら、ゆかりは天狗の面を持ちあげた。その時である。彼女の手が、まるで何者かにあやつられるように、スーッと下に移動していったのだ……。


というわけで、今日紹介するのは朝倉三心著『恐怖体験 私は性霊に犯された!! 襲いくるセックス・ゴーストの恐怖』(にちぶん文庫)であります。




上に要約したのは、その名も「天狗の面に魅せられたお立ち台ギャル」というエピソードの前半でありますが、あまりの怖さにとても最後まで書く勇気は出ませんでした。天狗も怖いんですが、ゆかりも怖いんですよ。お立ち台ギャルで、グループでのあだ名が「タカラヅカさん」、天狗の面をつけて鏡の前でダンスの練習をするだなんて……。ここに私はデカダンスの極致をみるわけであります。蛍光色のボディコン着てるんでしょうなあ。


で、最後まで要約するのはあまりにもキツイものがあるので、この先は印象的なフレーズのみを引用してゆきます。まあホラー映画の予告編の感じで、ひとつお楽しみください。


……ほらっ、見せてあげる……
……ゆかりちゃん、急に色っぽくなったんじゃない……
……ジュッポーンというまるでシャンパンの栓を抜いたときのような……
……その友人の母親は昔ストリッパーだった……


で、ラストはこうなります。
「友人の兄は、面を焼き捨てると彼女にいったというが、その消息は不明である。今夜も、どこかであの天狗の鼻が女体を悶えさせているのかもしれない。」


完。
というわけで本書は、かように怖ろしい「セックス・ゴースト」たちの跳梁を、克明に、それはもう生々しいスポーツ新聞的な文体で描ききった、怪談実話の名著なのであります。


この本はなにゆえに重要なのか、と問うならば私はこう答えたい。だれも問うてないけど、こう答えてみたい。
我々はつい死者の霊魂というのは、哀しみ、恨み、憎しみ……といったおどろおどろしいマイナスの感情だけでできあがっているように錯覚しがちですが、実はそうではないのかもしれない。
我々が思う以上に、幽霊たちを動かしているのはギラギラした「性欲」だったりするのかもしれない。なぜなら彼らとて、もとは人間だったわけですから。
死んだら食欲は衰えるにしても、性欲はどうなんだろう。愛憎の感情が残るんなら、性欲も残るんじゃないでしょうかねえ。


それにほら、よく「幽霊になると、生きていた頃の感情が、十倍にも百倍にもなる」なんて言いますが、だとするとイヤラシイことばっかり考えていたやつはどうなるんでしょう。十倍にも百倍にもイヤラシクなって帰ってくるんじゃないでしょうか。


さるにても、著者の朝倉三心氏は偉大であります。
よくもまあ、これだけセックス・ゴースト譚だけを集めたものだ。どこで、どうやって、誰から?と無粋なことを聞いてはいけない。これはすべて実話なのであります。
「河童に犯された人妻」
「女子大生にとりついたレズビアンの霊」
「犬の亡霊とセックスした男」
これらはすべて、この日本国で実際に起こったことなのです。朝倉先生以外の怪談本で、こうした体験談にお目にかかったことはないですが……それはきっといろいろな事情があるのだと思います。考えすぎると鬱病になるから、考えません。




本書には続編がありましてタイトルは『恐怖体験 私は性霊に犯された2 密かに忍び寄るセックス・ゴースト』
「襲いくる」から「密かに忍び寄る」とちょっと大人っぽい雰囲気になっているようですが、内容的にはよりハードになっております。
「セーラー服の女子高生に『露出せよ』と命令する怨霊」
「幽霊とスワッピングした中年夫婦」
「亀の霊に食い切られて不能になった青年」
などなど、怖くてガタガタ震えてしまうようなタイトルがずらりと並んでいます。ああ、「露出せよ」の命令調がたまらない。


果たして、著者の朝倉三心とは何者なのか?
カバーについていたプロフィールを参照してみると、1930年満州生まれ。経営コンサルタント、ライフカウンセラー、心霊相談家、執筆家として活躍中だとか。著書には『心霊紀行』『かなしばりのふしぎ』『心霊ショック』などの怪談関連書のほか、『水晶球占いのすべて』『タリズマン学入門』など占術に関するものもあるようです。


ちなみにこのシリーズ、2冊で完結かと思いきや、『性霊が私を犯しにくる! おぞましきセックス・ゴーストの戦慄』という作品も出ている模様。マトリックス三部作、ロード・オブ・ザ・リング三部作、そしてセックス・ゴースト三部作……。
こちらは私も持っていないので、なんとかして見つけ出したいところです。見かけた方は、コメント欄でお知らせください。


さらにちなみに。
このエントリーを書くためにさっき書庫の段ボール箱と汗だくになって格闘していたんですが、『私は性霊に犯された!!』と一緒にこんな本まで発掘してしまいました。

ホラークラブ編『悪夢の性霊実話集 身の毛もよだつ怪奇体験』

なんだこの本。
まるで見覚えがないですが、家人が買うとも思えないので、私が買ったんでしょうなあ。こちらもあわせて紹介しようと思いましたが、白髪が増えそうなのでやめました。正しい判断だったと我ながら思います。


(自慢にならないけど帯付初版、状態良好)




 

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