2011年11月25日金曜日

勝山海百合さん、おめでとうございます

勝山海百合さんが長編小説『さざなみの国』で第23回日本ファンタジーノベル大賞を受賞されました。


ご存知のとおり勝山さんは第2回『幽』怪談文学賞・短編部門優秀賞を受賞してデビュー。すでにプロ作家として活躍されており、『竜岩石とただならぬ娘』『十七歳の湯夫人』『玉紅乙女』の著作があります。



今回の受賞作『さざなみの国』は、湖畔の村で生まれそだった少年・さざなみが、滅びの危機に瀕した村を救うために旅に出るという物語。これまでの著作同様、中国風の異世界を舞台としたファンタジー小説です。


勝山さんの小説といえば、「波瀾万丈」とか、「血湧き肉躍る」とか、そういったエンターテインメント的な起伏や山場をあえて避けたかのような、淡々とした語り口が大きな特徴で、それはデビュー作「竜岩石」から最新作『さざなみの国』まで見事に一貫しています。こうした特色は現代日本のエンターテインメント小説の大勢からするとかなり異色。おそらくは勝山さんが愛読してきたという、志怪小説(中国の怪談奇談小説)の影響によるものなのでしょう。選考委員のひとり、荒俣宏氏の「『漢方薬』のような癒しの小説」という評言は、つくづく言い得て妙だと思います。


その一方でとんでもない奇想もある。ぎょっとさせられるような残酷さもある。日常のなかに非日常的なものがふっと入りこんできて「何だこれは?」と一瞬呆然としてしまうような不思議な魅力があります。『さざなみの国』でも、この「何だこれは?」の感覚はかなり強烈で、ああ、そこまで書いちゃうんだなあ、とかなり感銘を受けました。


奇想天外。でも総じて静謐。喜怒哀楽、生死をまるごと呑みこんで、悠々と幻想の世界に遊ぶような『さざなみの国』は、勝山さんのひとつの集大成だと思います。



ちょっと個人的なことを申せば、フリーライターになって最初にインタビューさせていただいたのが他ならぬ勝山さんで、発売されたばかりの(発売前だったかしら)『竜岩石とただならぬ娘』についてしどろもどろと質問した覚えがあります。その時に、「アジア各国を舞台に怪談を書いていきたい」と勝山さんが仰っていたのがつよく印象に残っていますが、先日『ダ・ヴィンチ』12月号でインタビューした際には「北欧怪談を書いてみたい!」と語っていたのが衝撃的でした。なぜスケールアップ!?


とにかく、『幽』出身の怪談作家がこうして活躍されるのはたいへん喜ばしいことです。昨晩の授賞式ではあまりお話しできなかったので、この場を借りてあらためて。

勝山海百合さん、ほんとうにおめでとうございました。






●『さざなみの国』勝山海百合/新潮社/1365円

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