およ、3月になったのか。というわけで2ヶ月間にわたる休暇はおしまい。まあ休暇といっても連載仕事は普通にあったし、夏場に出るものの準備や打ち合わせ、新刊プロモーションの稼働などがあったので、暇ではなかったのだけれども、ちょっとした空き時間に映画を観たり、本を読んだりということができたのでよかった。去年はこんなこともできなかったのだ。最近は世間から遅れること数光年、沖縄発のホラードラマ『疫(えやみ)』を見ました。全体のトーンはシリアスな事故物件ものなんだけど、役者さんがみんな地元の方で沖縄方言だから台詞の響きが柔らかく、どことなくほっこりしてしまう面もあり。
さて、昨日2月28日(土)は有隣堂藤沢店さんでのトークイベント。有隣堂藤沢店で「真冬のホラ-」というフェアをやることになり、その企画の一貫としてトークイベントを開催していただく運びになったのだ。書店さんからオファーをいただけるのはありがたいこと。基本的に私はライターになってからずっと同じような仕事をしているのだが(怪奇幻想系がメイン)それでも本を出すとこうしてお声をかけてもらえるのだなあと思う。感謝マン。
で藤沢である。正直行くまでは大旅行のような気がしていたのだが、横浜までは副都心線で一本、横浜を超えたら3駅目なので全然そうでもなかったです。金曜の晩はその準備、しゃべる内容をざっと組み立ててスライドを作る。といってもパワーポイントは使っていないのでJPEG画像をただただフォルダに突っ込んだだけである。この手の画像もcanvaのおかげでずいぶん作りやすくなった。ところでこの画像、自宅のモニターで見たらクリーム色くらいの感じだったのだけど、会場で映したらびっかびかの黄色で、やたらビビッドであった。阪神タイガース色であった(今スマホで見てみたらやっぱり黄色い。うちのパソコンは奥ゆかしいのであった)。
朝8時半の電車で出発。イベントは13時からだがその前に横浜に立ち寄り。みなとみらい線の元町中華街駅で降りて、坂をてくてく登って神奈川近代文学館へ。今神奈川ゆかりの作家展をやっていて、併設で平井呈一の展示があるのだ。今回の本では江戸川乱歩、平井呈一、紀田順一郎、荒俣宏の4人を大きく取り上げており、これは行かねばと思っていた。しかしなかなか横浜に行く機会はない。ちょうどいい機会だからとあわせて出かけてきたわけである。
横浜の山の手は雰囲気がいい。山から海が見下ろせて、坂道に西洋建築が建っているという町並みは、郷里函館とも似ているところがあるが、さすがに横浜は規模が大きい。公園も大きく、噴水もあって、素敵な雰囲気である。マリスミゼルのような格好をして歩き回りたい気分だ。あちこち豪邸が建っていて、何をしている人たちが住んでいるのかと思う。ベストセラー作家だろうか、社長だろうか(そのくらいしか富豪のイメージがない)。
で近代文学館、昔一度だけ来たことがあるはず。そのときは乱歩展で、紀田順一郎氏が館長をされていた時代だ。しかし周囲の雰囲気はなんとなく覚えていたものの、建物などは記憶になし。空いていた。まず神奈川ゆかりの作家の展示を見る。芥川龍之介の生原稿、自筆の河童の図をはじめ、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、中島敦、堀辰雄、中原中也など神奈川で生まれ育ったり、一時期住んでいたりした作家たちの遺品が展示されていて、興味深かった。
私は日本近代文学にはややアンビバレントな思いがあって、なんだか堅苦しくてつまらんと思うときもあるにはあるのだが、こうしてあらためて展示を見ると「好きだなあ」という思いが湧いてくる。私は結局好きなのだ、日本の近代文学が。私が近代文学に苦手意識を抱いたのは、大学研究のあの雰囲気であって、文学自体は好きなままであったようだ。そしてそういうものを好きになれたのも文学研究の場に触れたからという面も確かにあり、まあなんだか紆余曲折あって複雑なのだが、この年になってやっぱり好きだなと思えた展示であった。生きている間にもっと日本近代文学を読もう。それにしても芥川龍之介が描いた「耳を広げている人」の絵が不気味。クトゥルー神像みたい。
さて待望の平井呈一展である。平井の人生を一望する企画で、紀田順一郎、荒俣宏などが収集・寄贈したコレクションだという。感動したのは原稿である。アーサー・マッケン「恐怖」「弓兵」の生原稿に興奮する。怪奇小説の達人、平井呈一の直筆である。胸のあたりがぐっとつまったようになって、正直泣きそうでしたよ。愛用の万年筆、ペーパーナイフ、靴の形をした変わったインク壺など、平井呈一が仕事していた姿が浮かんでくるよう。俳句関連のものも展示されており、平井って「そっち方面」のいわゆる粋人でもあったんだよなあとも思う。江戸趣味の延長で怪奇小説をやっていた人で、芥川龍之介にも通じるスタンスだ。そのあたり無粋マンである私には到達できない世界であり、ぼんやり遠くから憧れているしかないのだが、文学館の売店にマッケンの文庫本が並べられているのを見たら、わーっと嬉しくなる。小規模ながら非常にいい展示だった。加山雄三のように感動。って分かんないだろうが、昔加山雄三が散歩して、あちこちで感動しまくる番組があったのである。『ちい散歩』の次の番組だ。
さてそうこうしてたらいい時間だ。藤沢に移動してお昼を食べねばならん。と思ったのだが20分くらいしかなくて、目についたミスドに入る。困ったらミスド、疲れたらミスド。コーヒーを飲んで気合いも入れたかったことだし。さらっと丸いもの(つまりはドーナツ)を食べて改札前に戻り、平凡社担当Aさんと合流。有隣堂藤沢店に向かう。
ほほーう、いい感じの本屋さんだああ。大きいし、品揃えもよくて、何フロアもある。古びたビルのたたずまいとしっくり馴染んでいて、いかにも地元で長年愛されてきた本屋さん、という感じである。東京ではあまり見ない光景だ。ホラーフェアも想像以上に充実したもので、こんなお店が近所にあったら通うだろなあ。私の本もたくさん販売してくれていました。
さてトークイベントである。当初予約が伸び悩んでいるようで心配したが、蓋を開けてみると会場のキャパちょうどくらいに埋まっており、ホッとしました。6階のホールにて13時からトークスタート。有隣堂の企画担当Nさんに司会に入ってもらいつつ、「ホラーを読む、ホラーを楽しむ」と題して1時間ほどお話しした。背後の窓には駅前ロータリー、電車の音がときどき聞こえる。いいロケーションである。
今何度目かのホラーブームであるという入り口から、「ホラーとは何か」という基本、さらに「なぜホラーに惹かれるのか」という問題を前半に。ラヴクラフト、キング、恩田陸の発言を紹介しながら、怖いものを娯楽として楽しむ人類って面白いですよね、というお話をしたような気がします。その場で話を考えながらだったので、どこまでうまく繋がったのか若干不安ではあるのだが、なんとか綱渡りで後半へ。
後半の30分では『日本ホラー小説史』の重要作品ということで、『リング』を取り上げて初刊本の書影とともに紹介。『リング』初刊本はあっちこっちで紹介しているので、若干高かったけどとっくに元を取った感があります。『リング』がホラージャンル形成にどれだけ大きな貢献をしたかという話から、戦後のホラー4賢人の功績を紹介して、令和のホラーブームの話に繋げておしまい。話し終わったら14時5分くらいで、計算したわけではないけど、まあまあきちんとおさまった。行き当たりばったりのアドリブ人生。
質疑応答コーナーでは今後のホラーはどうなるか、怖いもの見たさの感情とホラーの関係とは、昔の本の復刊についてなど興味深いご意見・感想をいただいて、私としてもいろんなことを考えるきっかけになった。サイン会にも多くの人が並んでくださり、芳林堂高田馬場店などではワニ絵を描くのが普通だけど、Xを見ていない方には意味不明かとも思い、オバケを主に描く。よく私のイベントに来てくださる方が練馬や船橋から来てくださって、とっても心強いことであった。あとはホラー小説ZINE『ウタ・カタ』を出している石原三日月さん、霜月透子さん、田原にかさん、『幻想と怪奇』のコンテストで佳作入選されたYoh クモハさんともご挨拶できました。皆さん、神奈川在住らしく、こっちで開催すると普段なかなか会えない方とも会えるのだなあと実感。よく有隣堂藤沢店のイベントに来ているという地元在住の方もいらしていて、いろんなご縁があったのです。リアルイベントはいいですね。
あとは二見書房のオカルト編集者小塩さんもわざわざ。平凡社からは社長さんが来てくださって、これまたザ・恐縮でありました。先日のラジオ収録に続き、土曜日のお休みなのに同行してくれた担当Aさんにはひたすら大感謝。編集さんなくては書き手というのは盆暗も同然なのである。少なくとも私はそうだ。お天気もよかったし、皆さんのおかげでイベントも成功だったし、羽生生純のマンガで太陽を見て「いい日和だ……」と呟く台詞があったけど(『恋の門』の多分2巻)、ほんとそんな感じの一日。
担当Aさんとは駅で別れ、藤沢駅周辺を散策。しかしいい感じで栄えてるなあ。近年地方都市は駅前に人がいないことも多いが、藤沢は便利なお店がぎゅっと駅周辺に凝縮しているようで、歩道橋を多くの人が歩いている。飲食フェスみたいのもやっていて、こたつに入って何か食べている人たちもいる。むふふ。楽しそうだ。遠方で仕事をするとこういう孤独のグルメ的な散策ができてありがたい。結局ぐるぐると歩き回るも、個人店っぽいお店は目に入らず、チェーン店でお昼を食べて帰る。帰りの電車もそれなりに長かったが、まあ同じ関東なのだしそこまで大変ということもない。また来よう、神奈川。いいとこだぜ。お夕飯は横浜で買った崎陽軒のシウマイ。







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