2024年7月21日日曜日

怪老人日乗:7月21日(土)

有名なデザイナーのSさん、本の装幀を多数手がけている方だが、その方とお仕事をして学んだことがいくつかある。その最たるものは「お夕飯の時間になると仕事場から自宅に帰ってしまう」というルーティンである。その方はあちこちと仕事されていて、各社の編集者がデザインがあがるのを今か今かと待っているのだが、毎日お夕飯の時刻になると、数時間いなくなってしまうのだ。といってもスタッフの方々が作業を進めているので、完全にストップするわけではないのだけれど。あの状況でもきちんとご飯を食べに行くって、すごい大事なことだなあと今にして思うのである。

というのもフリーランスとか自営業というのは、つい一日24時間対応になってしまいがちで、特に今はスマートフォンもあったりするので、朝起きてから寝るまで、なんなら外出先まで仕事の対応が降ってくる。どこかで「ここは休むところ」と決めないと、生活がすべて仕事に塗りつぶされてしまうのだ。それは自分で望んだことでしょ、と言われたらそれまでだが、こちらにも生存権があるのだし(会社員と同じだけ休む権利が本来ある)、文化的な生活を送る権利もあるので、やはりSさんのようなルーティンを設けるのは大事なことだと思う。

で。4月に目眩で倒れて以来、極力土曜日は休むようにしている。このところ忙しくて休めていなかったが、昨日は久しぶりに一日休ませてもらった。いや、休ませてもらったというのも変か。ルーティンなのだから当然なのだよね。

で朝からハーヴィー『五本指のけだもの』を一日かけて読み、昼は商店街で買ってきた持ち帰りのうどんを食べ(美味しかったです)夜は映画館に一人で出かけた。台湾ホラー『呪葬』。映画はまあ、60点くらいの出来映えだったが、それでも一人で電車に乗って映画に出かけるという時間がいいリフレッシュになり、やはり休むのは大事だなと思った次第。

『呪葬』についてもうちょっと書いておくと、このところ台湾ホラーが人気で、『呪詛』とか『悲哭』とか『辺校』とか、もうちょっと前だと『怪怪怪物』とか生きの良いホラーが生まれているが、そんな流れを受けて60点くらいの映画が上陸してきた、という感じ。そこも含めてブームっぽいなあという感じを受ける。

未見の方もいるだろうから詳しくは書かないが、決してつまらないわけではない。むしろ好感を持ったところも多く、なんならもう一回見たいなあという気もしている。どこがいいかといえば、久しぶりに実家に帰った時に感じる、あの自分の家なんだけどどこかよそよそしい感じ、をホラーに仕立てている点だ。主人公の女性は台北で娘を育てながら、ダブルワーク、トリプルワークで生活費を稼いでいる。娘は腎臓に病気があり、透析が必要な体。手術も控えており、仕事を休むわけにはいかないが、無理がたたってミスも発生し、仕事先の酒屋を解雇されてしまう。

そんな折、田舎に暮らす祖父が死亡したという連絡が入った。十年以上も足を踏み入れていなかった実家に帰ると、そこは大きな石造りのお屋敷で(石造りというのが南国風でいい。沖縄でもこういう建物をよく目にする)両親や姉はとてもよそよそよしいのだ。祖父の葬儀はもう始まっており、僧侶が木魚をぽくぽく叩いて読経している。向こうのお葬式とはこういう感じなのか、と感心する(白い垂れ幕に墨痕鮮やかに文字が書かれている。「忌中」にあたる文字は「厳制」というようだ)。和尚さんは禿頭ではなく、髪の毛があって、袈裟ではなくて襟のある中国服のような感じ。壁際に紙を折って作った蓮の花が飾られているのが、カラフルで台湾的である。

で初七日までと決めて実家に泊まりこんだ母子をさまざまな怪異が見舞う。この心霊描写は正直あまり感心しない。音と映像でビックリさせて、しかも夢でした、というパターンが続くので、どうなんだい、という気にさせられる。お化けの見せ方も各国のものを無節操に取り入れており、総じて方針が感じられず、あまりセンスのいい怪異描写ではない。しかし夜中のガランとした実家の感じ、屋根裏部屋に家族の写真だの昔使っていたオモチャだのがごたごたと置かれている感じなど、葬式×帰省の感じがよく出ていて、これとゴシックホラーを重ねたのは心理的にすごくしっくりくる。

後半はあっと驚く展開が待ち受けており、シャマラン的ですらあるのだが、まあそこは見てのお楽しみ。お坊さんが禹歩のようなこともしていて、呪術文化にも触れられた。公開日の翌日だが、映画館に来ていたお客は7人。うち3人はお父さんとお母さんと高校生くらいの娘さんで、土砂降りの雨のなかホラーを見に来るなんていいね!と思いました。ところで豊島園の駅は食べるところがあまりなくて、夕飯を食べ損ね。まあダイエットになるからいいか。

そんな感じの一日で、若干頭がすっきりしたので今日は真面目に仕事をしております。今週は締め切りが最低でも5ツ。







0 件のコメント:

コメントを投稿