2013年12月29日日曜日

【冬休み特別企画】 ルートビアを飲んでみよう


ルートビア、という飲み物をご存じだろうか?

アメリカ文学を読んでいるとよく出てくる。
これまでも何度か目にしたことがあって、そのたびに気にはなっていたのだが、 ものごとを曖昧かつ穏便に済ませようとするわたくしとしては、「ま、ビールの一種なんじゃないの? ビアって言ってるし」とスルーしてきたのである。

が。
この冬、スティーヴン・キングの大作『11/22/63』を読んだことで、ルートビアへの興味がむらむらと高まってきた。で、調べてみるとビアとはいうものの、アルコールではないらしい。コーラのような清涼飲料だ。

wikipediaによれば、

ルートビア (root beer) は、アルコールを含まない炭酸飲料の一種。商品としてのルートビアは、アメリカ合衆国において19世紀中頃に生まれたとされる。バニラや、桜などの樹皮、リコリス(甘草の一種)の根(root; ルート)、サルサパリラ(ユリ科の植物)の根、ナツメグ、アニス、糖蜜などのブレンドにより作られる。使用原料やその配分は厳密に決まっておらず、銘柄によって様々なアレンジが施されている。

というものであり、18世紀の米国人が自家醸造でつくったハーブ飲料に起源があるという。日本では沖縄や小笠原諸島でよく飲まれている、という記述もある。

飲んでみたい。
ますます興味がわいてきた。

ちょっと話は横道に逸れるが、わたしの生まれた北海道は、「炭酸飲料といえばコーラよりガラナ」という歪んだ価値観が蔓延している。ガラナといっても、お父さんたちがあやしい雑誌の通販で取りよせるあのガラナではなく、いや、原材料はあのガラナと同じなのかもしれないが、とにかく「ガラナ」と呼ばれる炭酸飲料が一般的に飲まれているのだ。


(想像できるかい?冷蔵庫でガラナが冷えている日常を?)



北の地の涯で、なぜ南米原産といわれるガラナが飲まれるようになったのか、なぜアメリカ文化の象徴たるコカコーラがそれほど広まらなかったのか、それはたいへんに興味深い問題を孕んでいそうだが、検索すればどこかに書いてありそうだから割愛。

とにかく、何が言いたいかといえば、「北国の人間はちょっと炭酸にはうるさいぜ」という伏線なのである。この伏線は活かされないまま放置される可能性が大きいが、まあ、年末だからちゃっちゃと先へいこう。


とにかく、わたしはルートビアに興味を抱いた。
それというのも、『11/22/63』の描写があまりにも旨そうだったからだ。


ジョッキのいちばん上を覆っている泡ごしにルートビアをひと口飲んだぼくは、内心で目をみはった。なんというか……濃厚だった。とことんたっぷり滋味に満ちている。というか、それ以外にこの味をどう表現すればいいのかわからない。この五十年前の世界は、こうやって来なければ想像もできなかったほどの悪臭に満ちてはいたが、こと味の面でいえばくらべものにならないほどすばらしかった。
「最高にうまいね」ぼくはいった。(S・キング著、白石朗訳『11/22/63』上巻)



これは、1950年代末に時間旅行した主人公が、たまたま口にしたルートビアの美味しさに驚くというシーン。何気ないちょっとした一コマなのだが、過去と現在の対比が「ルートビアの味」という小ネタによって象徴的に描かれている。キング翁の筆力をうかがわせるシーンだ。そんなわけだから、このルートビアが実に美味しそうなんですね。


飲んでみたいなあ、と思っていたところ、たまたま輸入食料品店で見かけたので購入。昨晩さっそく飲んでみたのであります。して、そのお味は……といえば。


(A&Wの他にもさまざまなメーカーから出ているらしい)


ええとですね、バニラの風味が漂う「子供用咳止めシロップ」のような感じであります。つまり、咳止めシロップにバニラエッセンスを垂らしたら、こんな感じになる。同じことを二度書いているような気がするが、まあ要はそういう味なのであります。


色なんかはコーラを思わせますが、姻戚関係でいうと「ハトコ同士」くらいのものでしょうか。ちなみに我らがガラナとは「いとこ同士」くらいの近さにあると感じました。方言というのは、同心円状に広まっている、という松本清張の『砂の器』でおなじみの説がありますが(方言周圏論)、日本の北ではガラナ、南ではルートビアがそれぞれ飲まれているのがなんとも面白い現象だなと。いや、これはこじつけですが。
そんなわけで、決して嫌いな味ではない。できれば50年代末の、目をみはるほど旨いルートビアを飲んでみたいけど、それは叶わないので。
21世紀初頭の輸入食品店で、ちょっとだけキング世界を追体験してみた、という次第であります。


ともあれ。
時間旅行をテーマとしたキングの『11/22/63』は、50年代~60年代の文化が生き生きと描かれているので、こういう楽しみ方もできるのですね。たとえば旧い車が好きな人にも、お薦めの小説だと思います。



(各ミステリーランキングを総なめにした畢生の大作!)






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