といっても、レオナルドの遺作が海底のムー大陸から見つかった、というような超古代史的話題ではない。お仕事の報告である。
★
現在発売中の『ダ・ヴィンチ』8月号ではたくさんの新刊インタビューを担当させていただいた。個人的に今月号の『ダ・ヴィンチ』、隠しテーマは「幻想文学リバイバル」であると思っている。どういうことか?まあ、具体的に見てゆきましょうか。
まずは泉鏡花賞作家・千早茜さんに新刊『あとかた』(新潮社)についてインタビューした。
婚約者がありながら年上の男と関係を続ける女性デザイナー、若い愛人と逢瀬を重ねる主婦、体に傷をつけることでなにかを確かめる少女……。自然体のままで生きることができない6人の男女をロンド形式で描いた充実の連作集である。
鏡花賞受賞作のデビュー作『魚神』などと比べると、リアルで現代的なものを描いているように見える。が、そこはかとない不気味さ、奇妙さが全編に漂ってもいるのも事実。内田百閒や吉行淳之介のような、リアリズムをはみだすリアリズムの手ざわりを感じさせる作品です。
つづいて。SF界期待の星・宮内悠介さんに『ヨハネスブルグの天使たち』(早川書房)についてインタビュー。
デビュー作『盤上の夜』に続き、『ヨハネスブルグの天使たち』も直木賞候補になってますますブレイクが加速している宮内悠介さん。本作はヨハネスブルグ、アメリカ、アフガニスタン、イエメンなどを近未来の世界各国を舞台にしたSF連作集。
すべての作品に、日本製の歌姫ロボットDX9(著者の発言によれば「〈初音ミク〉のような少女型ロボット」)が登場する。本来は娯楽用に開発されたこのロボットが、スラム化した高層ビルから耐久試験のため落下しつづけたり、戦闘用に改造されたり、と人間の欲望によってさまざまに利用されることになる。
読んでいて連想するのは、やはりJ・G・バラードの諸作。ありふれた現代の光景からSF性を見つけ出す著者のポジションはバラードによく似ている。第一作「ヨハネスブルグの天使たち」が、日本の巨大団地を舞台にした最終話「北東京の子供たち」とあわせ鏡のように展開してゆくとき、これは近未来SFではなく、『今ここ』の物語だったのだ、と気づかされる。
つづいて。幻想派の新鋭・小島水青さんには『さようなら、うにこおる』(中央公論新社)についてインタビュー。
主人公の色水紺子は売れない漫画家。伯父の管理するアパートで静かな生活を送っている。しかしそんな彼女の生活に、変化が訪れて……と要約してみたが、まるで意味がない。なぜならこの作品の魅力は、第一に水際立った文体にあるからだ。
文体の力によって、小島さんは見たことのない幻想の領域を切りひらいてゆく。そこには荒ぶる美しい一角獣がいる、謎めいた蜂飼いの青年がいる、奇妙な若い同棲カップルがいる、日本とも外国ともつかない懐かしい光景がある。
インタビューをしていて「なるほど!」と思ったことがひとつ。小島さんが理想としているのは『ゼーロン』の牧野信一や、 『第七官界彷徨』の尾崎翠のような、リアリズムと幻想が溶けあったような世界なのだという。魅力的なディテールがいっぱいの日常描写と、残酷でエロティックな神話的幻想世界。この両者がわけへだてなく共存するところに小島水青の特色があるだろう。幻想文学ファンは老いも若きも必読!!!の大注目作である。
さて。
小島水青さんに『さようなら、うにこおる』のインスピレーションを与えたのは、博物学や幻獣事典のたぐいであったそうな。『一角獣物語』を書いた種村季弘ももちろんお気に入りで、『うにこおる』中には女性作家名のアナグラムとして種村が登場している。
で。
その種村季弘のベストセレクション全2巻が、芥川賞作家・諏訪哲史さんによって編まれた。『種村季弘傑作撰』(国書刊行会)がそれである。刊行にあわせ、種村季弘の魅力について諏訪さんに語っていただいた。
ご存じの方も多いだろうが、諏訪さんは種村季弘の教え子である。高校時代から種村作品を愛読していたという諏訪さんは、直接教えを請いたい一心から、種村が教鞭を執っていた國學院大學に入学。その超人的な博学に接したことで、人生が大きく変わった。
今回、刊行された『傑作撰』全2巻は、そんな諏訪さんが亡き恩師への思いをこめて編んだ、本格的評論集である。文学・美術・映画・オカルティズムと、幅広い領域におよんだ種村の文業を、コンパクトに知ることができるアンソロジーだ。
種村季弘をよく知らない、という人はまず第2巻『種村季弘傑作撰Ⅱ 自在郷への退行』の「解説」だけでも読んでみてほしい。諏訪さんが恩師との日々を鮮やかに回想した、感涙必至の名文である。これを読めば、きっと種村季弘と彼が遺した膨大な仕事に興味がわくことだろう。
怪談業界の最新トピックをお知らせする〈『幽』怪談通信〉 のコーナーでは、『怪談実話 死神は招くよ』(メディアファクトリー)を刊行した丸山政也さんにインタビューした。
すでに各所で話題沸騰の『死神は招くよ』には、大きく3つの特色があるように思われる。
幽霊譚、恐怖譚にかぎらず、奇妙な偶然の一致のようなものも積極的に取りあげていること。イタリアやイギリスなど海外を舞台にした怪談実話が多く含まれていること。巧みな情景描写によって、エッセイのような読み味が楽しめること。この3つである。
料理の仕方によって、怪談実話というのはまだまだ可能性があるのだ。そう教えてくれた清新な作品集。個人的には幽霊も殺人鬼も出てこないのになぜだかゾッとさせられる「確率」がとりわけ好みだった。世界がグラリと揺らぐ感覚。これぞ怪談実話の醍醐味だろう。
ほかには、第7回『幽』怪談文学賞授賞式&ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞創設の説明会のレポートを書いていたりもします。総じて幻想文学濃度の高いお仕事ばかりさせていただきました(編集部の皆さんに感謝!)。
なお、次号の隠しテーマは〝ホラー〟です。お楽しみに。
★
『ムー』(学研)8月号も発売中。
記事の執筆を担当しましたので、ご覧いただけると幸いです。
ちなみに『ムー』はこれが初登場。
大学時代、生協の書店で毎号買っていた身としては、ちょっと感慨深いものがあります。
0 件のコメント:
コメントを投稿