2023年10月22日日曜日

怪老人日乗:10月22日(日)

わたしの名前はロボットです。明けましておめでとうございます。というわけでシンセサイザーの音楽を聴いているせいでロボットめいた気持ちになっている日曜日です。秋めいている、ときめいている、ロボットめいている。選ぶならどれ。どれもいいけど断然3番目だろう。

昨日は朝4時に目が覚めたので、久しぶりにたまっていた新刊に手をつける。キャサリン・レイシー『ピュウ』、原浩『蜘蛛の牢より落つるもの』、都筑道夫『都筑道夫の小説指南』など。家族が起きてくるまでにそれなりに読めた。午前中、子どもと二人だったので(本当は登校日だったが学年閉鎖でお休み)中央図書館に出て過ごす。わたしはゲラ読み、子どもも一人で過ごさせた。図書館で面白げな本を見つけたり、予期せぬ本と出会ったり、という経験は大事なことなので1時間半ほど放置。

駄菓子屋に寄って帰ろうとしたがお休みだった。午後は子ども野球。わたしは頭痛がしてきて仮眠グセンチュリー。鼻づまりまだよくならず。いよいよ駄目なら耳鼻科だが、そう思っていると症状治まり、モグラ叩きのごたる。

某紙から昨日書いて送った原稿のゲラ、もう届いている。ルビや誤字以外に先方からの赤字はなし。それにしても全国紙にホラーやモキュメンタリーに関する記事が載るのだから、そういう波が寄せているのだろう。私のような者(肩書きが「怪奇幻想ライター」になっていた。怪しすぎる)に依頼がくるのもその余波だろうし。世情不安定になり経済的にどん底の時こそホラーが読まれる、などとそれらしい理屈を付けたいところだが、バブル期だってホラーが流行っていたのだから関係がない。才能のある作家が生まれ、その活動に刺激されて新しい作家がまた生まれ、というサイクルが上手くいっている結果で、この30年のホラージャンルの進化の産物、としかいいようがない。

土曜の夜は家族が外出。少年野球の懇親会。父親も出るべきものかもしれないが、私はお酒が飲めないし、そもそも野球の人たちとあまり親しくない。それを言うなら奥さまだって親しくないので、二人とも欠席したいのだがそうもいかず。しかし「飲み会があるんですね!嬉しい」と言っている保護者もいたというから、世の中というのは分からない。

一人だったのでわたしも外食でも、と思ったけれども億劫になり自宅でパスタ茹でて食べ、配信でホラー映画を見る。今さらながら『テリファー』。地雷な気がして見ていなかったのだが、いやいや、面白いじゃないですか。痩身長躯、顔に白塗りしたアート・ザ・クラウンが目が合った女性を付け狙い、次々と出会う人たちを惨殺していく。その惨殺シーンが古き良き80年代のスプラッタ映画で、まず嬉しい。喜んじゃ駄目だと思うのだが、糸鋸でギコギコ体をまっぷたつにする一番の見せ場など、ひええ~痛そうといいながらも結果大喜びしてしまった。

冒頭でクラウンに目をつけられた女性が、次々にピンチに見舞われる。これで1時間23分保つのかしら、と不安になったが随所にツイストが効いていて、予想を裏切りながら展開していく。それでいて謎解きに走ったり、重厚な人間ドラマに逃げたりしていないのが好印象。ひたすらスプラッタだけで80分強走り通して、きちんと面白い。個人的に気に入ったのがクラウンのキャラ造型で、徹底して怪人なんですね。ホラーとサイコサスペンスを隔てるもの、それは「怪人」の有無だと思う。正体不明の殺人鬼であっても人の延長であればサイコサスペンス、しかし仮面を被ったり、変なメイクをしたり、お決まりの武器を持ったりすると犯罪者は人間の領域をはみ出して「怪人」に近づく。

この映画のアート・ザ・クラウンは明らかに人間を超えた何かで、人を殺すために出てきたような殺人マシーンなのだが、いまいち知能は高くなさそうだし、殺人の動機もよく分からない。ジェイソンやレザーフェイスがそうであるように、どこか間抜けなところがあって、いうなれば残酷な野生動物が面白がって暴れているような感じなのだ。そのため怖いのに不快感が薄い。

もうひとついいところは殺人シーンのバラエティの豊かさ。それが神出鬼没の怪人の魅力と相まって、乱歩の「盲獣」とか「人間豹」のような、純粋残酷エンターテインメントになっていた。こういう作品は今のご時世、なかなか成立させるのは厳しいと思うのだが、『テリファー』はぎりぎりの線で「アリ」だと思います。こんなに面白いなら先日公開された2作目を劇場で観るのだった。

今日はゲラ読みなどして過ごす予定。この数日で読んだ本。倉阪鬼一郎『屍船』『死の影』『ブラッド』の再読と、この冬に出るアンソロジーの1巻目のゲラ。倉阪鬼一郎のホラー、どれもそれなりに面白いのだが、それだけに代表作を決めがたい。個人的には50人が死ぬモダンホラーの『ブラッド』か不条理小説の『ジ・エンド』かなあと思うが、脱領域的な作風だけにこれ一作、と決めるのはなかなかに困難だ。ホラーに限らずいえば断然『田舎の事件』『活字狂想曲』だと思うが。アンソロジーは重量級、すごい読み応えである。

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