2023年6月13日火曜日

『読物時事』昭和23年8月号・海外恐怖小説特集

久しぶりに日記以外の記事を書くことにしよう。古本屋で興味深い雑誌が買えたのでご紹介しておく。『読物時事』昭和23年8月号(時事通信社)だ。




戦後刊行された粗悪な紙質のいわゆるカストリ雑誌なのだろうが、全体に女性向けとい感じで、ハリウッドスターの近況紹介などもあり、そこまで俗悪な感じはない。矢野目源一が「西洋寄席ばなし」というコラムを寄稿していたりもする。

この雑誌で「海外恐怖小説特集」が組まれていたとは知らなかった。日本の古本屋を例によって巡回していて偶然発見、ぬおおと驚いて即座に注文したのはいうまでもない。まずは目次を見ていただきたいが、以下の5作が翻訳・掲載されている。





オブライエン「金剛石レンズ」
モーパッサン「幽霊」
バルザック「死刑執行人」
コリンズ「蝋燭の恐怖」
ルブラン「アルセーヌ・ルパン 妖女変化」

このうちルブランは長編連載の第5回だから、純粋に特集向けに訳されたのは4編ということになるだろう。フィッツ・ジェイムズ・オブライエンの「金剛石レンズ」は南條竹則氏によると大正15年刊の『世界短篇小説大系 亞米利加篇』に既訳があるそうだから、知る人には知られた短編だったのだろうか。バルザックの「死刑執行人」は「エル・ベルデゥゴ」の邦訳(『知られざる傑作 他五篇』岩波文庫)でも知られる作品。コリンズ「蝋燭の恐怖」はちょっと分からない。船に満載された火薬が、今にも蝋燭で大爆発しそう……というサスペンスである。これも既訳がある作品と思うのだが、お心あたりの方、ご教示を願う。


(挿絵は茂田井武が手がけている)


まあいずれも抄訳(おそらくすべて既訳あり)であるし、全体に「夏場の軽いスリラー特集」的な感じが漂っているのだが、それでも昭和23年の時点で海外怪奇幻想小説の特集が編まれていたとは驚きだ。わが国で本格的なホラー特集が編まれたのは、『別冊宝石 世界怪談傑作集』(昭和34年9月号)ということになっているが、それよりも11年も早い。




他にこの号に言及している方はいないので、ひょっとしてほとんど知られていない特集なのではないか。戦前にはもちろん『新青年』などでこの手の怪奇幻想小説は多く訳されただろうし、戦後も先述の『宝石』などで紹介されることになるが、そのミッシングリンクのような形で、戦後間もない時期に海外恐怖小説特集が編まれていたことは、知っておいてもいいのではないだろうか。

【追記】言及している人がいない、と上に書いたのはこちらの確認洩れで、ホラー評論家の中島晶也さんがすでにツイートされていました。そう簡単に新発見の資料が出てくるわけないですよね~。

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